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アルジェのイタリア女
第一幕その三
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つってもあんた達とこみたいに酷いことはしないさ」
 そこは保障してみせる。
「俺達は奴隷でもそれなりに扱いはいいからよ」
「そうそう」
 ことさらにキリスト教徒達とは違うと言う。だがこれは実際にそうであった。オスマン=トルコは寛容な国であり奴隷であってもかなりの地位に就けたりした。無論ムスリムになれば奴隷から解放される。キリスト教よりも遥かに寛大であったのだ。
「そんなに気を落とさんな」
「今だって何の危害も加えられていないしさ」
「なあ」
「それで奴隷になってどうなるの?」
 イザベッラはあらためて彼等に問うた。
「流し目やにこやかな笑みでも誰かにあげればいいの?」
「まあそういうこった」
 海賊達は言った。
「そこのあんたはまあ召使かな」
「お慈悲を」
「タッデオさん」
 ふっくらとした姿のイタリア風の服を着た中年の男が連れられてきた。何処かひょうきんな顔をしている。少なくとも悪人の顔ではなかった。
「同じ奴隷でな」
「結局奴隷なんですか」
「それが嫌ならムスリムになるんだな」
 海賊達はイザベッラにタッデオと呼ばれたそのふくよかな男に言った。
「そうすればあんたは奴隷から解放される」
「いい話だろ」
「けど私は」
 イタリアのヴェネツィアの人間だと語ろうとした。実はイザベッラも同じヴェネツィアの人間である。
「イタリアのどっかの国なんて俺達には関係ないな」
「そんな」
 そう言われて小さくなってしまった。イザベッラが何とか強がっているのと正反対であった。
「俺達にとっちゃあの長靴にある国はあまり違いがないのさ」
「トルコの前の小国のどれかってとこだな」
「あのヴェネツィアが小国なんて」
「だってそうじゃないか」
 海賊達は言い返す。
「あんたの国なんて俺達の国に比べれば」
「ちっぽけなもんさ。ここの方がずっと大きくはないかい?」
「別にそうは思わないわ」
 イザベッラは彼等の自慢に平然と返した。
「海はやっぱりヴェネツィアよ」
「おやおや」
「気の強いお嬢さんで」
「おい御前達」
 そこへハーリーがやって来た。
「そこにいたのか。早く積荷をおろせ」
「あっ、ハーリーさん」
「こりゃどうも」
「全く。仕事が溜まっているんだからな」
 ハーリーは口を苦くしながら海賊達に対して言った。
「積荷も奴隷達も・・・・・・んっ!?」
 ここでタッデオに気付いた。
「御前は奴隷か?」
「はあ」
 タッデオはハーリーに力ない声で応えた。
「お慈悲を」
「だからこうしてここまで連れて来てやってるんだ、感謝しろって」
「けれど奴隷には」
 また海賊達に対して情けない言葉で応えた。
「全く、男の癖にだらしない」
「イタリアの男ってのは喧嘩は本当に弱いからな」

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