暁 〜小説投稿サイト〜
カヴァレリア=ルスティカーナ
第一幕その一
[1/3]

[1] 最後 [2]次話

第一幕その一

                第一幕 オレンジは花の香り
 イタリアの中でもシチリアという場所は独特の場所である。ここはそれぞれ地域性の強いこの国の中でもとりわけ強烈な個性を放っていることで有名だ。
 あの有名なマフィアはここにルーツがある。かつては山賊であったが時の王が治安維持の為に彼等を警察にしたことがはじまりであるとも言われていればフランスへのレジスタンスがはじまりであるとも言われている。実際はどうやら前者の方が正しいようであるが。後者は神話であると言われている。
 そのマフィアはファミリーを中心として独自の規律を持っている。一族の絆を重んじ、そして苛烈である。血には血を、報復には報復を。それがマフィアである。
 これはマフィアだけではない。シチリア全体にある規律だ。やられたらやり返すといった考えはこの場所においては絶対的なものがある。とりわけ裏切りには厳しい。
 そう、裏切りには。そこには不貞も含まれる。これはその不貞と制裁の流血の話である。
 シチリアの復活祭の日。人々はこの有り難い日を祝い宴に興じていた。その朝に遠くから歌声が聴こえてくる。
「ミルク色のシュミーズを履いたローラ」
 若々しい声である。高く、艶もあるが何処か物悲しい声であった。
「御前がその口許に笑みを浮かべるとそれは桜桃の様に白く、赤くなる」
 それは男の声であった。恋人を想っているのであろうか。
「御前に口付けを出来る者は幸福だ。そこに何があろうともそれが出来れば俺はそれでいい」 深い愛である。彼はそこに全てを賭けているようである。
「天国に行こうとも御前がいなければ意味はない。俺にとっては」
 その歌声はシチリアの朝に聴こえてくる幻だったのだろうか。何処かに消え失せてしまった。だがそれは確かに耳に残るものであった。シチリアの者達の耳に。
 そんな歌が残る祝いの朝。この村でも人々は宴に興じていた。
「ほらほら、オレンジも出して」
 教会の前であった。着飾った女達が朗らかに言う。
 服は赤に青に緑に。どれ一つとして地味なのはなかった。若い娘達も夫のいる中年の女達も皆着飾っていた。彼女達は晴れの日に相応しく晴れ晴れとした顔であった。
「この季節はオレンジよ」
「花もね」
 その中の幾人かが言う。
「オレンジの実だけじゃ足りないわ」
「花がないと。それで祭を飾りましょうよ」
「そうね、花も必要ね」
 皆それに頷く。
「オレンジのかぐわしい花の色と香りで」
「この祭を祝いましょう」
「おい、娘さん達」
 その女達に村の男達が声をかける。
「何かしら」
「今日は機は織らないのかい?」
「あのリズミカルな音は今日はないのかい?」
「ないわよ」
「今日はお祭なんだから」
 彼女達は元気よくそう返す。
[1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ