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カヴァレリア=ルスティカーナ
第一幕その一
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古い教会の前はもう色取り取りの服と朗らかな笑顔、そして豊かな物で溢れ返っていた。そこにはそのオレンジもオリーブも、そして赤ワインもあった。まさにシチリアの祭であった。
「その代わり神様の恵みがあるわよ」
「恵みが」
「そうよ、今日は復活祭」
 元々は異教の祭であったがキリスト教に取り入れられた。キリストの復活した日であるとされるが実は太陽がまたその照らす時を増やすはじまりだと言われている。こうした他の宗教を取り入れている祭はキリスト教にも多い。クリスマスにしろそうななのである。
「黄金色の恵みがあるわよ」
「その恵みは」
「そう、麦よ」
 女達はここで嬉しげに言った。
「主から」
「そしてマリア様から」
「そう、今日は恵みの日」
「蘇られた主が我等に恵みをもたらす日」
「この日ばかりは」
「歌いましょう、優しい歌を」
「そして恵みをもたらす歌を」
「皆で」
 その場で酒や果物で乾杯をはじめた。教会の前で皆歌い踊る。
 教会の中から賛美歌が聞こえる。そこでも神と主が讃えられていた。誰もがこの日を祝っていた。だがそれをすることが許されていない者もいたのであった。
 皆が宴に興じているその端に彼女はいた。暗い顔で黒い服に身を包んで。悲しげな顔でそこに立っていた。宴は彼女とは関係がないようであった。
 黒い髪に茶色の目、鼻が高く彫が深い。整った顔立ちと言えた。
 だがその表情は実に暗かった。祭は心にすらないようであった。そこに寂しそうに立っていた。
 彼女の名をサントゥッツァという。この村に生まれこの村で育っている。だが以前妻子ある男と密会していたことから教会に破門を言い渡されていた。シチリアではマフィアの他に教会の力も強い。その為彼女はいつも黒い服を着て一人寂しく暮らしているのである。それが破門された者の宿命であった。
 賛美歌が終わり教会の中から人々が出る。その中に一人の中年女がいた。中年といってもまだ若さが残っている。赤い髪に黒い目の気のしっかりしていそうな女性であった。
「ルチーアさん」
 サントゥッツァは彼女の姿を認めると声をかけてきた。
「あら、サンタ」
 ルチーアは彼女の声に気付き顔をそちらに向けた。
「どうしたの?ここに」
「トゥリッドゥの姿が何処にもないんです」
 サントゥッツァは彼女にそう答えた。
「村中探したんですけれど」
「そろそろ帰ってくる頃よ」
 ルチーアはそれに答えてこう述べた。
「実は昨日酒の買出しに言ってもらって」
 彼女の家は居酒屋をやっているのだ。夫がなくなってからは息子と二人で店をやっている。ルチーアの料理と気さくな人柄でこの村では評判の店だ。
「フランコフォンテに行ってもらったのよ」
「本当に!?」
「ええ、そうよ」
 彼女は素直に事実を述べたつも
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