暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
SAO
〜絶望と悲哀の小夜曲〜
全てへの岐路
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シゲさんは鍋を煮込んでいた手を止めると、さらに煮込んでいたシチューを盛った。

ほれ、と軽い声と対照的に、目の前に置かれた皿になみなみと入ったクリームシチュー(のようなもの)は相当ランクが高く、料理人の料理スキルの高さが伺える。

ここまでとは言わないが、せめて食べられるものを作ってもらいたい、と横でもう早速食べている我が従姉に言いたい。

レンも早速スプーンを手に取り、一口啜る。

「お、美味しい!」

美味だった。濃密に煮込まれた肉や野菜が、繊細なハーモニーを奏でている。

しかもそれらが、純白のクリームでより引き立てられている。

SAOにおける食事は、オブジェクトを歯が噛み砕く感触をいちいち演算でシミュレートしているわけではなく、アーガスと提携していた環境プログラム設計会社の開発した《味覚再生エンジン》を使用している。

これはあらかじめプリセットされた、様々な《物を食う》感覚を脳に送り込むことで使用者に現実の食事と同じ体験をさせることができるというものだ。

もとはダイエットや食事制限が必要な人のために開発されたものらしいが、要は味、匂い、熱などを感じる脳の各部位に偽の信号を送り込んで錯覚させるわけだ。

つまり現実のレン達の肉体は、この瞬間も何を食べているわけでもなく、ただシステムが脳の感覚野を盛大に刺激しているだけにすぎない。

だが、この際そんなことを考えるのは野暮と言うものだ。今舌の上で感じている、最高の美味は間違いなく本物だ。

シゲさんを除いた全員は、ただ大皿にスプーンを突っ込んでは口に運ぶという作業を黙々と繰り返した。

それを見てシゲさんが、お茶を飲みながらからからと笑う。

そんな、あの異常な空間が嘘だったかのような、のんびりとした時間もユウキの放った言葉でピシリと止まる。

「シゲさん、これホントに美味しいね!ボクも今度、作ってみるよ!」

時が、止まった。

あのシゲさんを含めた、全員がいっせいに顔を逸らした。レンの首が急な動きで嫌な音を立てたが、それすらも気にせず逸らした。

自らの生命を守るために。

命が惜しかったから。










やがて、きれいに──文字通りシチューが存在した痕跡もなく──食い尽くされた皿と鍋を前に、皆が深く長いため息をついた。

「「「「美味しかったぁ〜」」」」

げふっとジュンが行儀悪くゲップをし、シウネーにたしなめられる。

それを笑いながら、レンはぽつりと隣で同じく笑っているシゲさんに話しかけた。

「……………シゲさん」

「ん?何じゃ、レン君」

「…………………………僕、前線から離れようと思う」

突然のレンの告白に、シゲクニの目が驚きに少しだけ見開かれる
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