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くらいくらい電子の森に・・・
第九章
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額を、何かが這い回る感覚で目が冷めた。…どうやら、清潔な白い布団に包まれているようだ。最近、こういうことが本当に多いな。目を閉じたまま、耳だけで辺りをうかがった。…何も聞こえない。ゆっくりと寝返りを打って様子を見る。紺野さんの声が、かすかに聞こえた。
「…動いたぞ」
今起きたような風を装って、ゆっくり目を開けた。
「姶良!」
柚木の声が真上から降ってきた。素で驚いて目を見張る。目やにでぼやける視界に、覗き込む柚木の顔が見えた。
「…近」
ちょっと頭を上げたらキスできそうな距離だな…と靄がかかる頭で考える。…手に、何か石油臭いものを持っている。
「……マッキー?」
ふいに嫌な予感がして、柚木を押しのけてベッド脇の壁に据えられた鏡を覗いてみると、案の定ひたいに「にく」と書いてあった。

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「……ミート君の方かよ」
…凹むわ。
「んー、肉じゃないなという話になってね」
「……なんの話だよ」
「王大人という話も出たけど、それもないだろうということになって」
「……なんでだよ…『中』が先だろ、その場合」
大の大人が二人もいて、倒れた僕を気遣うでもなく、ひたいに何を書くかで盛り上がるなんて…ここ最近、僕の扱いはすこぶる粗末だ。白い布団に突っ伏して、肺の中の空気を全部吐き出さんばかりのため息をついた。
「いやほら、看護婦さんも『大丈夫ですよー、脳波も異常なしです』とか言うからさ…ほら、俺達もヒマだし」
紺野さんが取り繕うように言う。
「マーガリン塗れ。落ちるから」
「起床一発目にすることがマーガリンを顔に塗りたくることか。…ステキな習慣だな。僕も閉鎖病棟の世話になるよ」
「いじけるな。次は王大人にしてやるから」
「キャラ選択を不本意がってるわけじゃないよ!」
「じゃ『王』とか」
「それもっとダメなひとじゃないか!だったら『にく』のままで結構だよ!」
「そうだな。ミキサー大帝には勝ってるしな」
「………そうね」
…考えてみれば、叫んだり倒れたりしたおかげで、二人にまで腫れ物に触るような扱いを受けて核心からフェードアウトという最悪のパターンは回避できた。こういうことが出来るのも、ある意味人徳か。もう落書きにこだわるのは止めて、話を先に進めよう。
「…あの人、なにか言ってた?」
僕が起きてからずっと浮かべていたニヤニヤ笑いに、陰が差した。紺野さんは一瞬だけ目を泳がせて、もう一度僕に視線を戻す。
「…いや。あの後、気が狂ったように笑い出して、話ができなかった」
「僕を笑ったのか」
「自分の言葉で倒れたのが、可笑しかったらしい。お前のことは知らないようだった」
一息に言うと、無理に笑顔を浮かべた。
「…そっか」
覚えてはいないんだな。ほっとしていいのか、落ち込んでいいのか。…僕は曖昧
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