第四部第五章 英雄と梟雄その五
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見れば二十世紀の派手なつくりとはまた違う豪奢なつくりである。金や銀で飾られ、床は白亜である。
(あまり好きではないのだけれどな)
そのつくりは八条の好みではなかった。だが彼の一存でこの部屋が決定されたわけではないのだ。
多分に建築家に任せた。連合で特に名の知られた建築家であった。彼は豪奢な建築を得意としていたのだ。
(しかしそれにしてもやり過ぎだ)
八条は金や銀で飾り立てるようなことはあまり好きではない。
「ベルサイユやサンスーシーではないのだし。もう少し今の連合に合った建築にできなかったのだろうか)
実はこの建築家は昔の欧州の建築に深い影響を受けていたのだ。
「とにかく豪奢にしないと駄目だ」
そう言ってこの部屋をつくった。とにかく彼はかっての西欧の建築をこよなく愛していたのだ。
だが家はアメリカ風であったりする。そして着物を着て中華料理を食べる。
「芸術と生活は別だよ」
彼はこう公言している。これもまた連合の芸術に対する考え方であった。
(この部屋だけだからいいが)
その建築家が国防省で担当したのはこの部屋だけであった。他の部屋は軍が造った。やはり軍の建物なので機密保持や安全上の都合があったのだ。
ともあれこの部屋で侍従と正対した。天皇からの授かり物を持っているので侍従が上座になった。
「では陛下から長官へのお渡しものです」
「はい」
わかってはいるがやはり緊張する。
(まさか陛下から頂くとは)
まだ信じられない。
(こうして各国の元首にお配りしているのだろうか)
だがそんな話は聞いたことがない。
(何故私なぞに下さるのだろう。それがわからない)
頭を垂れながらもそう考え続けていた。頭を上げてもまだ考えていた。
「あの、長官」
ここで侍従の声がした。
「あ、はい」
見れば侍従は既にチョコレートを彼に差し出している。見れば深紅の絹に覆われ、ピンク色の同じく絹のリボンで飾られている。
(何か思ったより少女趣味だな)
天皇の趣味はあまり知られていない。世間ではよく若いながらしっかりした方だと言われている。だが、これを見る限りやはり年相応の方のようだ。
「どうかお受け取り下さい」
「はい」
八条はそれを謹んで受け取った。
「ではとくとご賞味下さい。陛下の手作りです故」
「手作りですか」
これを聞いて余計わからなくなった。当然ながら天皇のみにならず王というものは自分で料理をする必要はない。出された料理を食べるのも彼等の仕事である。
(陛下はそもそも料理をされたことがあるのだろうか)
儀礼としてあるだろうがあくまで儀礼である。ましてやチョコレートなぞ作られるとは思えなかった。だが、それを顔に出すわけにもいかない。
「謹んで食べさせて頂きます」
「
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