第四部第五章 英雄と梟雄その五
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わかりました、陛下にはそうお伝え致します」
「お願いします」
こうしてチョコレートの拝領は済んだ。八条はまずそれを冷蔵庫に入れさせた。
「丁重にな。陛下からの授かり物だ」
「またそんな」
受け取った官僚の一人は笑って言った。
「本当なのだが」
「はいはい、わかりました」
彼はまだ信じてはいなかった。そして冷蔵庫に入れた。
仕事が終わると彼はそれを取り出させた。そして会食の間でそれを待った。
「こちらです」
「うん」
やがて秘書官がそのチョコレートを運んで来た。八条は銀の皿に置かれたそれのリボンを解いた。
「中身はどのようなものか」
赤い絹を拡げると一個の箱が出て来た。木製である。
それを開けると中には白と黒の珠が二十個近く入っていた。どうやらホワイトチョコもあるようだ。
「これは意外だな」
黒いチョコレートだけだと思っていたらまさかホワイトもあるとは。彼はまずはホワイトを一つ手に取った。
「ふむ」
どうやら手作りらしい。これも信じられない。
「陛下は料理を嗜まれるのか?」
「初耳ですが」
秘書官は答えた。
「そうだな。私もそんな話は聞いたことがない」
儀礼では別の料理を作る。こうしたお菓子は作らない筈だ。
「だがこれはシェフに作らせたものではない」
その証拠に形が不揃いだ。まるで小さい女の子の作ったもののように。
「これは」
八条はそれを見て思わず苦笑した。本当にぎこちない作りだ。
「まさか手作りとは」
常識で考えて一国の君主が手作りの菓子を渡すなぞ考えられない。八条はそれにおおいに驚いていた。
「そう思うと私は本当に幸せ者だな」
彼はそう言ってチョコを口に入れた。
中にはチェリーが入っていた。ほんのりとした甘さが口の中を包み込む。
「これは」
かなり上等のチェリーだ。シロップが芯にまで浸かっている。そしてチョコも。
「ふむ」
美味かった。八条は今度は黒のチョコを口に入れた。
今度はブランデーが入っていた。ボンボンである。
「細かいな」
ここまでやるとは思っていなかった。ブランデーにも甘さが残っていた。
あとは夢中で食べた。気が付くと全て食べ終えていた。
「御馳走様」
「お味は如何でした?」
秘書官が食べ終えた八条に問うた。
「いい。まかさここまでとは」
「満足されたようですね」
「うん。お世辞ではなく本当に美味しかったよ」
彼は真顔で語った。
実は彼は隠し事が苦手だ。政治家は駆け引きに時と場合によっては隠し事をしなければならない。だが彼はどうもそれができなかった。
顔に出るのだ。こうした政治家も案外多い。
「八条長官は何かあったらすぐわかるな」
マスコミでは日本の議員であった頃からよくそう言われた。
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