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【旧】銀英伝 異伝、フロル・リシャール
第3次ティアマト会戦(6)
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ける熱さで、一瞬頭が冷める。だが、彼の気分が落ち着くには、まだまだ酒の量が少ないというものだった。
 ポプランは乱暴な振る舞いで椅子に腰掛けたが、それから先にすることはなかった。
 少なくともその時には、頭脳部を失った第4艦隊は未だ軍隊としての秩序を回復することもできていなかったからである。
 第4艦隊司令部旗艦、レオニダスは撃沈され、司令官のパストーレも傷を負ったという。首脳部も負傷者多数で、現在代理の旗艦として空母ラクスミーが選ばれていた。その話を聞いたポプランは、怒鳴り込みに行くという名案が頭をよぎっただろうが、結局それを実行することはなかった。
 それが無益なことであると理解していたからに違いない。


 ポプランが食堂で酒を呷っている同時刻。
 とある一隻の標準戦艦が第4艦隊空母ラクスミーに接舷していた。
 それは戦艦ヒスパニオラ。
 第5艦隊所属。分艦隊旗艦仕様。
 そこに乗っていたのは、戦局を収拾するという重要な任務を担った、第5艦隊主席幕僚、フロル・リシャールだった。



***



「無様な姿を見せるな、リシャール准将」
 ラウロ・パストーレ中将は、疲れきった様子でベッドに横たわっていた。血の滲んだ包帯が頭に巻かれ、ギブスに首を固定しているかつての上司の姿は、ただ痛々しいばかりだった。
 彼は暗い艦長室の中、小さく取られた肉視窓から外の窓を見ていた。影になって顔は見えずとも、その背中がすべてを物語っている。意気消沈し、悔しさを背負った背中に、フロルは見つめた。
「フィッシャー准将は?」
MIA(戦闘中行方不明)だ。旗艦に総員退避命令を発したあと、各員が脱出艇で避難した。私は……その時には意識を失っていたから……気づいたときには行方不明になっていた」
「……中将がご無事であっただけでも、幸いと考えねば」
「だが、兵の犠牲が多すぎたな」
 パストーレの言葉の通りであった。第4艦隊はその4分の1の艦艇が撃沈され、大破や中破もさらに4分の1に上る。緊急の改修措置で作戦行動に耐えうる艦艇は約半数の5000隻。無傷の艦が多いのは幸いと言えたが、これも単純に帝国軍が殲滅よりも突破を優先しただけだろう。もしもラインハルトが第4艦隊を殲滅しようとしていたならば、第4艦隊は今頃、文字通り宇宙の塵と消えていたことは間違いない。
「パストーレ中将、今は後悔をするよりも、現状に対応しなければなりません。後悔や懺悔はあとでいくらでもできるのですから」
 フロルはこちらを見ようともしないパストーレに向かって、そう言った。フロルがここまで来たのも、敗軍の将を慰めるためではないのだ。
 パストーレはフロルに顔を向けた。
 その時、フロルはその茫洋と感情の抜け落ちた顔を見て、背中に寒気が走るのを知覚した。普
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