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【旧】銀英伝 異伝、フロル・リシャール
第3次ティアマト会戦(6)
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パルタニアンにとって、乱戦こそ活躍の場だった。
 だがそれとて、大局に影響を与えるものではなかったのである。

 1945時。
 ポプランは随分と数の減った空母のうちの一つ、空母ラクスミーに帰還した。周りを見ても、空母級、小艦隊規模の旗艦の数が恐ろしく減っているのがわかった。乗っていた中級指揮官を格納可能な空母と言えども、その能力が十分に発揮しているとは言いがたかった。格納するべきスパルタニアンもまた、多くが撃墜されていたのである。

 第4艦隊はラインハルトの熾烈な攻撃によって、文字通りボロボロになっていた。

 そうしてポプランはヘルメットを食堂に入るなり、壁に叩きつけたのである。

「こんなバカげた戦いがあるか」
 それは無念が滲んだ独り言だったろう。ポプランが死線を乗り越え、同盟軍に知らせたはずの敵奇襲艦隊は、結局容易く同盟軍を突破していったからである。彼の努力が、ムラサメ少尉の犠牲が、結局報われなかったように思えたのだ。
 もっともそれは自虐が過ぎるという話であった。ポプランがその一端を務めた防衛網によって、同盟軍は寸前のところで完全な奇襲を防ぎ得たのである。第5艦隊主席幕僚、フロル・リシャール准将が手配した防衛網が間に合わなければ、同盟軍は理想的な??それは帝国軍にとってという意味であるが??挟撃のもと、完全な敗北を喫していただろう。

 だがそれはポプランには関係のないことだった。
 ポプランにとっては、目の前の敵艦隊が、偉大なるポプラン様がいた第4艦隊をいいように弄んでいったことが悔しかったのである。悔しく思い、そして驚いてもいた。彼の心には、いつの間にか慢心が蔓延り、帝国軍を軽視してしまっていたのだ。その帝国軍にしてやられたことが、彼には許せなかった。
 もしかしたら、先行させたイワン・コーネフの消息が未だ知れないことも、ポプランを苛立たせる要因だったかもしれない。帝国軍の奇襲が本隊に伝わっていることからも、コーネフが無事情報を伝えられたことは間違いないだろう。だが、彼の親友兼相棒と会えないということが、彼には面白くなかったのである。

 後世の人々がオリビエ・ポプランという()人《・》を評価するとき、大局的視点の欠如をしばしば指摘した。彼は一介の飛行部隊長としては類い希なる英雄であったが、のちにヤン・ウェンリーのもとで階級を上げるに連れて増す、その役割の重要性には応え切れていなかったのではないか、と言われていたのである。
 だがそれは厳しすぎる評価というべきだった。人には人の果たすべき役割というものがあって、この時代のこの場面において、ポプランは少なくとも十分すぎるほどの能力を有していたと言えるだろう。

 閑話休題。
 ポプランはどこからともなくウィスキーを取り出し、乱暴に呷った。喉が焼
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