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冥王来訪
第二部 1978年
ソ連の長い手
崩れ落ちる赤色宮殿  その2
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 場所はワシントン郊外ラングレー・米中央情報局(CIA)本部。そこで密議が行なわれた。


「長官、今回のゼオライマーの件は……」
じろりと、長官の目に強い一瞥(いちべつ)を投げかけた。
「実はな……現在調査中なのだよ。大統領直々に御剣(みつるぎ)雷電(らいでん)公に密使を派遣したばかりだ」
「御剣公……、たしか将軍の親族でしたよね。煌武院(こうぶいん)の分家筋の……」
長官は、重苦しく頷く。
「そうだ。ゼオライマーの行動次第によっては、今後に東アジア情勢に変化を与えるのは必須。
岩国から京都まで密書を送り届けたばかりだよ……」
「何故準備も不十分なうちに……」
長官は紫煙を燻らせながら、室内を何度か往復する。
そしてこう答えた。
「時間が経てば経つほど、KGBの潜入工作員(イリーガルエージェント)がこの情報を掴む蓋然性が高くなる」

「中ソ関係には影響は与えるでしょうか……」
再び、男の方を振り返る。
「20年前に熱戦を繰り広げた間柄だ。
中ソ関係は、対日、対米、対BETAで一応同じ立場を取っているが……、例えば対印や対越では立場が分かれる。
なので、第二次大戦時の時の連合国のようにはならない可能性が高い」
そう言って、灰皿を引き寄せる。
「一例を挙げれば、軍事分野でも中国は対空兵器はソ連に依存している。
それ故に技術移転を度々打診しているのだが、ソ連の反応は決して芳しい物ではない。
それくらい微妙な関係なのだよ。あの二国関係は……」
静かにタバコを灰皿に押し付けた。
「確実なのはBETAによってもたらされた米ソ間の偽りの平和……。
その様な時代は終わりつつあることだよ」
 
 ふと男は、下卑た笑いを唇に浮かべる。
「今一度、アムール川あたりで衝突が起こって、中ソ対立して欲しいものですなぁ……」
ニタニタと笑う男の顔を、長官はまじまじと見た。
「なに笑っているのだね」
「中ソ双方の弱体化は、決して我が国にとって悪い事ばかりではありますまい」
男は長官の愁眉(しゅうび)を開かせようとして、その様な事を口走ったのだ。


 放心したかのようにぐったりしている長官に、男は再び声を掛けた。
「中断しつつあるパレオロゴス作戦の件はどうなりましたか……」
長官は気を取り直して、答えた。
「実はな……ルイジアナのバークスデール空軍基地から50機ほどのB52を飛ばして焼き消すつもりだ」


 長官が口にした「成層圏要塞(ストラトフォートレス)」の異名を持つ、戦略爆撃機B52。
翼幅56メートル、8基のターボファンエンジンを搭載した5人乗りの大型機。
同機は31トン超の爆弾やミサイルを搭載可能。最大航続距離は14,000キロメートルを超える。
空中給油を受ければ、即座に全世界に展開可能
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