暁 〜小説投稿サイト〜
冥王来訪
第二部 1978年
ソ連の長い手
崩れ落ちる赤色宮殿
[1/3]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 北京駐在日本大使は、北京から東へ約300キロメートル離れた河北省の避暑地・北戴河を訪れていた。
そこにある別荘の一室に、通訳や参事官たちと共に通される。
部屋の中では灰色のズボンに白い開襟シャツを着て、椅子に背を預ける小柄な男が寛いでいた。
彼等は、寛ぐ男に深々と一礼をする。

大使は顔を上げると、男の方を向いて、こう告げた
大人(ターレン)、お休みのところ申し訳ありませんが喫緊の課題で参上しました」
男は、今にも夕立が来そうな暗い表情で言った。
「率直に申しましょう。我々は今の所、北方に割ける兵力は御座いません。
何より我が国に反動的な立場を取る河内(ハノイ)傀儡政権への懲罰に出向くしかありませんので……」
話の内容は、北ベトナムへの軍事侵攻を匂わせる物であった。
 

 大使は肘掛椅子に腰かけると、脇に立つ護衛に手紙を渡した。
ここにいる人間は、恐らく護衛と言えども中共調査部か、中共中央統一戦線工作部の物であろう。
皆、筋骨たくましく恰幅が良く人間ばかりだ。
長らく続いた文革とBETA戦争で人民は飢えて食うや食わずの生活をしている。
共産主義とは言っても、所詮田舎の人間は奴隷なのだ……
遠い商代の(いにしえ)より変わらぬ、支那の現実。
 気を取り直して、手紙の事に関して言及した。
「先ずはこれをご照覧を」
 手紙を見るなり、男の表情は凍り付く……
其処には驚くべきことが記されていた。
 BETAが一種の電気信号で動く生体ロボットと類推される……。
「これは日本政府の見解ですか、俄かに信じられません……」
 男は、ぼうっと目の前が暗くなって、目の前にあるすべての事象が自分から離れていくのを感じ取った。
しかもどこか知れぬ、深淵に引きずり込まれるかのような感覚に陥っていく……。


 この話が事実ならば、この5年に及ぶ地獄の歳月は何であったのであろうか……
得るべき成果は無く、多くの尊い人命が失われたのは無駄であったのか。
あの化け物共が、ただの機械の類と言う話を受け入れることが出来なかった。
「そんな馬鹿な……、絶対にありえようはずがないではないか」
 20年前、火星で生命体が発見された事を喜んだことも、10年前の月面でのBETAとの初接触の衝撃も何の価値も無かったのか……
 だが、そう言って打ち消せば打ち消すほど、彼の想像ははっきりと、理屈ではなく事実として脳裏に映し出される。

 大使はテーブルの上に有る熱い茶を両手で持つと、蓋碗で扇ぐ様にして冷ます。
血の気を喪って、死人の様に唖然とする男の姿を見ながら、一口含む。
「私も正直驚きましたよ……。陸軍参謀本部ではその様に分析して居ります」
「やはり、あのゼオライマーを作った木原博士が関わっているのですか……」
「面白い
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ