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冥王来訪
第二部 1978年
ミンスクへ
ベルリン その5
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、或いは精神的な皇帝なのか……」
彼は慌てて其方に顔を向けた
脇には、彩峰(あやみね)が真剣な顔をして立つ
先程迄の薄ら笑いは消えて、目が据っている
彼は、得意の英語で、解りやすく答えた
「我が国の大政を、聖上より一任されているのは殿下で御座います。
実務は宰相ですが、これは先の大戦や政治事情で変わらざるを得なかったのです」
奥で焼き菓子を頬張っていた黒髪の少尉が、皿を放って此方に走ってくる

『面白くなってきた』
『ここ等辺で、爆弾を落としてやろう』
その様に考え、マサキのは早速行動に移すことにした

 白皙(はくせき)の美男子が続けて聞いて来る
「ではあなた方の国は二重の権威構造なのですか。
王と皇帝の……。
しかも王は世襲ではないと、聞き及んでいます。
さっぱり理解出来ません」

 マサキは敢て発言した
何も考えずに、ドイツ語で応ずる
「権威は金甌無欠(きんおうむけつ)の帝室だ。
将軍は、飽く迄、神輿飾りでしかない。
国策に疵瑕(しか)が生じた際、その責を負って貰う存在だ。
宸儀(しんぎ)は国家その物であるが故に、責任には問えん
その為の人身御供(ひとみごくう)の制度と言えば、理解出来るか。
俺は、そう理解してるとだけ、伝えて置く」
其の青年は納得した様子であったが、周囲の者たちの様子がおかしい
篁は唖然としており、巖谷は薄ら笑いを浮かべている
彩峰は、能面の様な表情ではあったが目だけ動かしてきた
傍から見てハッキリ怒りの態度が分かる
その場にいる帝国軍人達は、ほぼ同じ気持ちであったのを、彼は察した
しかし、眼前の東ドイツ軍人は、笑みを浮かべている
恐らく、東洋人と違って、目から表情を読むと言う事が出来ぬのであろう
斜め後ろの美久を見ると、心配そうな顔で、胸に手を当てている
「事実を言ったまでであろう!」
彼は、彼女に笑い返してやった
 彩峰は、懐よりタバコを出す
一本摘まんで、使い捨てライターで火を点けると、遠慮せず吸い始めた
テーブルにあった使っていない灰皿を引き寄せ、椅子に腰かける
そして、静かに言った
「篁君、その青年にドイツ語で話してやれ。
誰が国家元首かを……」
血の気が引いていた篁の顔に色が戻る
彼は、短い返事を彩峰に向かってする

「なあ、篁、俺が間違っているのか。
俺は歴史的事実を言ったまでだぞ」
彼は冷笑しながら篁への返答する

 マサキは誤ってしまった
此処が、彼のいた現代日本であれば、それは事実である
しかし、此処は異星種起源の怪物に蹂躙(じゅうりん)されつつある異界
歴史も化学も文明も同床異夢の世界で、彼の言葉は危うかった
共産圏の東ドイツであろうか無かろうが、失敗だった
仮にアメリカでも同じ結末を迎えたであろう

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