第十四章 慶賀雲音
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吹田駅と御堂急デパートに挟まれた大通りは、昼夜を問わず、たくさんの自動車が行き交っている。
だが現在、その様子が実に奇妙であった。
無数の乗用車やトラックは、すべてがすべて、粘土細工を捻ったかのごとく歪な形状に歪んでおり、タイヤの色も白っぽく、全体もおおよそ見ることない薄気味の悪いカラーリング。それが、ビデオのスローモーション再生であるかのように、のろのろ、ゆっくりと、動いている。
動いているというのに、運転席はおろか、車内には人の姿がまったく見えない。
それもそのはず。
ここは、人界の裏側に存在する世界なのだから。
見る物のことごとくが歪みに歪み、色調ことことくがネガポジ反転して、白が黒くて黒が白い、どこもうっすら腐臭の漂う、ただ地に立っているだけでも気が狂いそうになる、どんよりとした瘴気に満ちた世界。
異相同位空間、略して異空と呼ばれている。
その異空の中に、少女たちの姿が幻影のごとくに浮かび上がり、さながら妖精のごとく軽やかに舞っている。
少女たちと、白く大きな怪物。
魔法使いたちが、スローで流れる自動車の間を、縫うように跳ねながら、手にした武器でヴァイスタと戦っているのである。
「雉香ちゃんっ、いまや!」
「分かっとる」
白い魔道着姿の白田雉香は、慶賀雲音の声に小さく頷くと、膝のバネで高く跳躍していた。
「アンテイクフムト ブリッツ ヴィダーゼン!」
ヴァイスタの頭上で華麗なトンボを切りながら、素早く呪文の言葉を叫ぶと、両手に握られた剣身が、青白い輝きを放った。
「やあああああ!」
雉香の雄叫び。
落下の勢いに気合を加えて、ヴァイスタの、ぬるりとした真っ白な頭部へと、剣を叩き付けていた。
剣は頭頂をすっぱり両断し、雉香の落下と共に顔、首を引き裂いて、胸にかかるところで止まった。
雉香は剣を引き抜きながら着地すると、どうだ、といわんばかりの顔で、くるり振り向いた。
ぬるぬる、ぬめぬめとした、真っ白な巨人、ヴァイスタの動きが止まっていた。
「よし」
雉香は会心の笑みを浮かべながら、拳を強く握った。
動きを止めて立ち尽くす巨人の背中に、静かに近寄った雲音が、そっと手のひらを当てた。
小さく口を開く。
「イヒベルデベシュテレン ゲーナックヘッレ」
ヴァイスタを昇天つまり消滅させるための、呪文を唱えているのである。
「雲音ちゃん、後始末は任せた
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