第十章 とあるヴァイスタの誕生と死
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し続ける能力においては、道彦は姪にかなわない。
叔父に実力で劣っていると分かっているからこそ、正香は必ず、自身のその特徴を生かして持久戦に持ち込もうとする。
持久戦においては、いつも勝つのは正香である。
道彦は、分かっているのにいつも焦れて動いてしまう。
とはいえ大半の場合は、実力差で半ば力技的に叔父が姪を下してしまうのではあるが。
今回もそのような構図、そうなりそうな雰囲気が作られつつある。叔父が痺れを切らして、姪が迎え討つという。
小さな呼吸をしながら、向き合う二人。
実力が伯仲しているからこそ、空気がよりしんと静かになる。
心臓の音すら読み合うかのように、二人は神経研ぎ澄ませ、じっと動かない。
だが、
ついに、動いた。
動いたが、ただしそれは正香の方であった。
埋まりつつある実力差を信じてのことか、埋められないからこそ虚を突いたということか。
いずれであろうとも、このようになった以上もう勝負はついたも同然であった。
道彦の迷いのない攻めが、正香の小手を打ったのである。
く、と面の中から呻き声。だらりと正香の腕が下がった。
二人とも、ほとんど動いていないというのに、いま初めて少し動いただけだというのに、はあはあと息を切らせている。
「参りました」
正香は、深く頭を下げた。
道彦も頭を下げると、お互い向き合って正座し、面を外した。
「そろそろこっちが負けることもあるだろう、と最近いつも覚悟はしているのだけどね」
だけどこの様子ではまだまだかな、と叔父はいっているのである。
「はい」
「曇りがある」
叔父のその言葉に、正香の心臓はどんと痛いくらいに跳ね上がっていた。
「まだ兄さん、お前のお父さんのことを気にしているのか?」
尋ねる道彦であるが、正香は俯いたまま答えなかった。
きゅっと唇を噛んでいつまでも下を向いているというのが、答えでもあった。
3
東病棟の四階。
四人部屋の病室であるが、ネームプレートには慶賀雲音と書かれているのみだ。
患者の、双子の姉である応芽がお見舞いに訪れており、ベッド脇にパイプ椅子を立てて座っている。
彼女の目の前、ギャッジアップさせたリクライニングベッドに慶賀雲音が背を預けて座っている。
預けているといっても、それは自身の意思ではなく、ただ現在そのような姿勢になっているというだけだ。
その目には、そもそも意思の存在を感じさせる一切の光が宿っていない。
まるで、マネキンである。
いや、生身であることは見て分かる
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