第十章 とあるヴァイスタの誕生と死
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に追い込んだの、あたしやもん」
「違うよ!」
アサキが怒鳴っていた。
応芽の自責を責める目付きで、睨み付けていた。
すぐに弱々しい表情に戻り、弱々しく消え入りそうな声で、言葉を続ける。
「誰のせいでもない。みんな、ただ二人に、成葉ちゃんと正香ちゃんに仲直りして欲しかっただけ。わたしたちも、ウメちゃんも。まさかヴァイスタになってしまうということも、知らなかったんだし。校長だって、成れ果てなんて噂だっていっていたし。だから……だから誰も悪くない!」
「令堂……おおきにな」
笑みを浮かべる応芽であったが、あらためて見つめたアサキの弱々しい顔に、やり場なさそうに視線を横へ動かした。
アサキは、ず、と鼻をすすり、目をこすると、俯きながら小さく口を開いた。
「わたしもね、幼い頃に本当の両親から虐待されていたんだ。それでね、引き取られることになったんだけど」
いったん言葉を切って、ひと呼吸置くと、また言葉を続ける。
「思い出したくないのか、記憶は漠然としている。でも、お湯をかけらた熱さとか怖さ、殴られたり、暗い部屋に閉じ込められたり、刃物で切られた痛さ、頭を押さえられて水の中に沈められたりした時の、断片的な映像や感じた恐怖、感触はしっかり残ってもいて……たまにね、思い出して身体がぶるぶるっと震えちゃうことがあるんだ」
「令堂……」
「不安が、絶望が、というのなら、わたしもいつか、ヴァイスタになっちゃうのかなあ」
「させへんよ!」
涙を滲ませ、恐怖に怯えているアサキの、やわらかな身体を、応芽は腕を回してぎゅっと強く抱き締めていた。
「あたしが、させへんよ。……もう、誰も、二度と……」
応芽は、アサキの頬に、自分の頬を強く押し当て、擦り付けた。
「正香ちゃん……成葉ちゃん……」
ぼろぼろ、っとアサキの目から大粒の涙がこぼれていた。
自らも腕を回して、応芽の身体を抱き締め返していた。
すがるように、応芽の胸に顔を埋めるアサキであったが、それで感情を押し殺すことなど出来るはずもなく、慰められていることにむしろ高まってしまい、あぐっとしゃくり上げると、空を見上げて、また大声で泣き始めた。
いつまでも慟哭を続けるアサキを、
いつまでも応芽は強く抱き締め続けていた。
空の色は、ただひたすらに青かった。
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