閑話1 エル・ファシルにて その1
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れば、ヤンの目から見ても熟練した部隊ではないと分かる駐留艦隊ではさらに混乱してしまう。この際、司令官が冷静さと戦意を著しく欠いているわけではない事が分かっただけでも、幕僚としては満足しておくべきだ。最もその前にエル・ファシル星系まで自分が生きて戻れるかどうか。
戦艦グメイヤは被弾しつつも戦闘可能状態で反転を果たした時、後衛に配置されていた直属戦隊の過半数は失われ、他の指揮下部隊も四割以上の被害を出していた。それでもどうにか部隊全体が反転を果たし、攻撃する態勢を見せたため、すでに三割近い損害を出している帝国軍側も一方的で乱雑な砲撃を停止し、ゆっくりと時間をかけつつ後退に移った。
今度は慎重に部隊を再編制しつつエル・ファシル星系に帰投した残存部隊は三五〇隻、兵員八万五〇〇〇人を数えていた。損害が大きく部隊内における士気の低下も随所で見られるものの、それなりに秩序が維持されているという点で、行政府も民間もそして軍・艦隊要員自身も安堵していた。ただ敵の残存部隊も七〇〇隻を数え、こちらの倍以上。それだけの戦力でエル・ファシル攻撃を企図するとはまず考えられないが、早急に増援が必要であることは、ヤンに限らずエル・ファシルにある全ての人間が理解していた。
しかし、周辺星域の情勢はそれを許さなかった。
エル・ファシル星域と同様の同盟外縁部のダゴン星域において、ラザール=ロボス中将率いる同盟軍第三艦隊がほぼ同数規模の帝国軍に優勢な状況で勝利した。ただし帝国艦隊も壊滅したわけではなく、未だ五〇〇〇隻以上の戦闘可能艦艇を有しており、彼らは惨めな敗北を糊塗するためにも勝利を欲していた。彼らはイゼルローン要塞への帰路途中、エル・ファシルとアスターテの両星域をめぐる小競り合いで帝国側が優位になっている状況を確認すると、『駐留部隊からの増援要請を受けて』比較的損傷の少ない三五〇〇隻を艦隊より分離し、エル・ファシル星域を『叛乱軍の魔手から解放しよう』と図った。
それを感知したのはドーリア星域軍管区テルモピュライ星系の哨戒部隊であり、エルゴン星域軍管区を通じてエル・ファシル星域に連絡が着いた時には、エル・ファシル星域外縁部の跳躍宙点に無数の帝国軍艦影が姿を現していたのだった……
「ヤン中尉。エル・ファシル行政府から軍管区司令部に、民間人の脱出計画の立案と遂行の依頼があった」
「はぁ……」
「今、司令部が防衛計画にかかりっきりになっているのは貴官の目にも明らかだろう。皆、手がふさがっているんだ。新任でここに配属されたのは運が悪いとは思うが、貴官に民間人脱出計画の指揮を執ってもらう」
「……了解しました」
命令を持ってきたパーカスト大尉の言葉とは裏腹の、『面倒なことはごく潰しに任せればいい』といった表情に、ヤンは敬礼しながら心の底から
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