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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
閑話1 エル・ファシルにて その1
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れだけの関係ゆえに、リンチ司令官がどういう気持ちなのか。直接聞く以外に方法はないだろう。幸い理由はある。

 脱出計画の概要をまとめ司令部に出頭したヤンは、忙しく動き回る司令部要員と、司令室の片隅に頭を寄せ合って話し合っているリンチ司令官以下の幕僚の姿を見た。スクリーンには数少ない偵察衛星や哨戒艦からの情報が映し出されている。確認されている帝国艦隊は四〇〇〇隻に達しているようだった。

「司令官閣下。民間人の脱出計画ができたので、ご覧いただきたいのですが?」
 ヤンの報告に、幕僚の一人が視線を向ける。その動きによって気が付いたのか、リンチは首を廻してヤンを見た。
「何の用だ?」
「行政府より依頼されていた脱出計画ができましたので、ご覧いただきたいのですが?」
「わかった。後で目を通す。デスクにおいて置け」
 リンチは何も置いていないデスクを指差す。興味がない、というより端から司令官の頭に民間人の脱出計画は入っていない。そう感じ取ったヤンはデスクの上に計画書を置いてリンチの背中に向けて敬礼する。答礼はもちろんない。だがヤンが振り返って司令室を出ようとした時、その背中からリンチが声をかけた。再びヤンが振り返ると、リンチは視線をヤンに向けることなく続けた。
「ヤン中尉。民間人は全員船に乗れるんだな?」
「はい、閣下。一人残らず」
「よし。ご苦労だった。ハイネセンまでの民間船の指揮も引き続き貴官に任せる。うまくやれ」
 そういうと再びリンチは幕僚達と話し合いを続ける。もうないな、と判断したヤンは司令室を後にし、宇宙港に作った会議室へと戻った。

 間違いなく、とまでは言い切れない。だが司令官の頭には脱出船団を護衛するつもりが毛頭ない、というのは理解できた。民間船団を逃がすために戦うか、それとも民間船団を囮にして自身が逃亡するか。それともただひたすら保身のために逃げ出すか。自由惑星同盟軍創設以来の輝かしい歴史の中にも、民間人を犠牲にした汚点がないわけではない。逃がすために戦うなら、脱出計画の発動時刻を問い質すなり指示するはずだ。ということは。

「最悪に近いが、最悪ではない」

 ヤンは独白すると決断せざるを得なかった。

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