暁 〜小説投稿サイト〜
ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
閑話1 エル・ファシルにて その1
[1/6]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話
宇宙暦七八八年八月 エル・ファシル星域 エル・ファシル星系

「ひとつ狂うと全てが狂うものだな」

 エル・ファシル星域駐留艦隊旗艦である戦艦グメイヤの司令艦橋の一角、幕僚グループの末席でヤンは胸中でつぶやいた。

 当初アスターテ星域を哨戒警備中であったエル・ファシル星域駐留艦隊所属する二〇隻ばかりの哨戒隊が、運悪くほぼ同数の帝国軍哨戒部隊と不運にも遭遇。お互いが後方へ増援を呼び、あれよあれよという間にエル・ファシル駐留艦隊のほぼ全機動集団が出動する羽目になった。

 帝国軍側も予期せぬ拡大であったのか、おそらくはアスターテ星域の哨戒部隊を全て糾合したのであろう一〇〇〇隻程度の戦闘集団を編成し交戦。お互いに二割程度の損害を出して終わった。二割という数字は決して小さくない数字であり、帝国軍の後退に合わせて戦域を離脱する判断を下した上官に、用兵上の判断ミスがあったとはヤンは思わなかった。

 だが帝国軍は帰投すると見せかけて急速反転し、油断したエル・ファシル星域駐留艦隊の後背を襲撃した。最後尾に付けていた戦艦グメイヤの周囲には破壊された僚艦の生み出す爆発と閃光が溢れることになる。想定外の事態に慌てふためく司令部にあってヤンともう一人、管区司令兼任のリンチのみがある程度落ち着いていた。

「艦隊右舷回頭! 迎撃せよ、砲門開け!」

 リンチの声は大きく、聞く者とそして言った者自身を落ち着かせようとしたものだろうとヤンは思った。だが、後に敵を背負いながらの一斉反転迎撃は、一時的に部隊全体の側腹部を敵にさらけ出すことになる。反転攻勢をかけるのであれば、すでにエル・ファシル方面への移動を開始している前衛部隊から順次反転し、ドーナツの輪を内側からひっくり返すように陣形を再編すべきではないか。ヤンは意を決し幕僚グループの末席から、上官のいる司令艦橋の最上部までできるだけの速度で駆け上がると、恐慌をきたしている他の参謀達の困惑の視線をよそに、リンチに向かって自分の考えを告げた。それに対してリンチは眉を顰めつつ、小さく首を振ってこたえた。

「貴官の言いたいことはわかるが、部隊全体が混乱している現状では細かい指示を必要とする艦隊機動は実施不可能だ」
「であれば、回頭を中止し全速で前進。時計回りで敵の後背をつくべきです」
「それまでに味方の大半がやられてしまう。敵の方が優位な状態に立っている以上、より短時間で敵に正面を向けられるよう動くべきだ」
「しかし」
「ここは士官学校のシミュレーション室ではない。下がれ」

 リンチが議論を打ち切るように、視線を艦橋正面のスクリーンに視線を戻すのを見て、ヤンは何も言わず敬礼して自分の席に戻った。これ以上言っても司令官は聞く耳を持たないであろうし、ここで再度意見具申をして作戦が変更することにでもな
[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ