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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──
これにて、一件落着──?
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開けてみないと分からないものだ。
峰理子の裡面には、《イ・ウー》という組織が暗躍している。規模も目的も不明、国家公的機関や各国情報機関がその存在を認知しているのかさえ、まだ分かっていない。不明瞭なのだ。今は時間の流動に身を任せて、事態が進展していくのを見遣っているくらいしか出来ない。


「……今が束の間の休息、だろうね」


苦笑しながら、いつの間にか伏せていたらしい目線を上げる。窓硝子の向こうには紫金と茜とが綯い交ぜになっていて、それに染まりきってしまった千切れ雲が揺蕩っていた。東京湾の藍も不完全な藍で、あの斜陽たちは黄昏時の侵略者らしく思えてしまって、どうにも仕様がない。そうして緩慢に腰を上げて、ベッドの傍らに据え置かれている椅子の方に移動した。上体を起こして飲料水を飲んでいるアリアを横目にしながら、背もたれに深く腰かける。


「ところで、傷の調子はどう? まだ痛む?」


そう問いかけると、彼女は飲料水の入ったペットボトルを備え付けの小テーブルに置いた。そのまま上体を支えるように手を着いて、おもむろに胸元のあたりをそっと触れている。「まだちょっとだけ痛むけど、大丈夫。我慢できるわよ。子供じゃないもん」そう笑んでいた。
アリアの零したその笑みの裡面に、彼女自身の意地の悪さが無いことは分かりきっている。それでも、心臓の何処かが痛くて堪らない。微細な硝子片が一挙雑多に刺さってしまったようで、指で摘み取ろうにも、それが出来なかった。その原因も、自分には分かりきっていた。


「……ごめんね。アリアのこと、(まも)れなくて」


そう伝えた言葉は、自覚してしまうほどには不格好で、途切れ途切れで、震えていた。彼女がどんな顔をしたのか、自分がどんな顔をしているかなどは、気にする余裕すらない。ただ自分の胸臆に秘めた想いだけを吐露することに躍起になっている──ただそれだけなのかもしれない。
そうして、その森閑がほんの一刹那のものだったのか、或いは数秒、十数秒のものだったのかを体感することすらも出来ていなかった。それでも、彼女だけを見詰めていた。

アリアがそうした自分の言葉を、どのように受け止めたのかは分からない。ただ、胸元に遣ったままの少女さながらの手を握り締めて、伏し目にさせた赤紫色の瞳を揺らがせている。それに靡いた髪も瞳に映射する斜陽にも、彼女は気にしないでいた。反面で茫然としているようだった。
「……なんで」そう呟いたアリアの声は、細細としていたように聴こえる。想いの吐露を一挙に告ぐかのようにして、彼女特有の勝気さは──そこには微塵も見えなかった。


「なんで、彩斗が謝るの? 本当なら謝るのは、アタシの方なのに……。パートナーになってくれたこと、アタシとママのために、一緒に頑張ってくれてるこ
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