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Raison d'etre
一章 救世主
5話 黒木舞
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 神条奈々は、ディスプレイに映った中継映像を呆然と眺めた。夜空を背景に鮮やかな紅い華を散らせながら、空を舞う少年。それが緩やかに、美しく弧を描き、落下が始まる。
『桜井君っ!』
 誰かの叫び声。同時に悲鳴があがる。
 奈々は我に返って、最も優に近い篠原華に願いを託した。
「華! 援護を!」
 そして、亡霊の反応を示したマップ情報を見て愕然とする。先程まで大きく横に広がっていた亡霊群が、今は一つの点を目指して急速に密集し始めていた。亡霊群が向かう先には血に染まりながら落下する桜井優の姿。
「――なに、これ」
 奈々の口から、ぽつりと言葉が零れた。
 いまだ七十以上の数を誇る全ての亡霊が、墜落する桜井優ただ一人に向かって殺到し始めていた。まるで、桜井優以外の中隊員が目に入っていないようだった、
 六年にも渡り亡霊との戦闘を見守っていた奈々でも、亡霊がここまで集中的に一人を狙ったケースは見た事も聞いた事もなかった。
 あまりにも不可解な亡霊の行動に、次の命令が出せない。その間にも、桜井優を目指すように一団となった亡霊の群れが特殊戦術中隊の隊列に大きく切り込みを入れ、空いた穴から亡霊が次々突破していく。
 完全に浸透を果たした亡霊を見て、奈々は弾かれたように叫んだ。
「浸透を許すな! 両翼、後退! 近接遅滞戦闘用意!」
 奈々の命令を受けて、中隊が亡霊を抑えようと縮まっていく。しかし、それでも亡霊群の突撃を抑えきれず、隊列が大きく崩れ始めた。両翼のフォローも間に合いそうにない。
 奈々はすぐに悟った。もはや崩壊は避けられない。
「華! 優くんを!」
 奈々が叫ぶより先に、華が落下する優を守るように上空から殺到する亡霊の間に割り込んだ。華の振り下ろした銃剣が亡霊の頭を吹き飛ばす。
 続く銃撃で後ろに続いていた二体の亡霊が吹き飛んだ。しかし、その後から更に数体の亡霊が飛び出す。到底抑えきれる量ではない。
「第三小隊! 回収用意!」
 奈々は力の限り、叫んだ。
 その間に、華のもとへ四体の亡霊が迫る。
『ハナっち!』
 ハスキーな声とともに、華の前に一つの影が飛び出し、同時に亡霊の首が弾け飛ぶ。
 ――第四小隊長、黒木舞(くろき まい)。全中隊において、最も近接戦闘に秀でた小隊長。彼女の真価は乱戦において発揮される。
『早く、新人君を拾いに行って!』
 銃剣を構えた舞が叫ぶ。
 華は自由落下する桜井優を目指し、急降下を始めた。反対に舞は上空から迫る亡霊に向かって高度をあげていく。
『桜井君!』
 華の手が、落下する優の腕をしっかりと掴む。華はそのまま優を抱き寄せ、しっかりと背中に腕を回した。しかし、優はぐったりとして華の身体に抱きつく様子を見せない。
 映像
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