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Raison d'etre
一章 救世主
5話 黒木舞
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越しにその光景を見た奈々は、反射的に問いかけた。
「意識は?」
『あります。でも、血が!』
 華が金切り声をあげる。多量の出血を前に、恐慌状態に陥っているようだった。
「すぐに機動ヘリを回す。止血して!」
 本部へ映像中継を行っている機動ヘリには医者と医療機材が用意されている。
 奈々が機動ヘリに命令を与えようとした時、それまで防波堤の役割を果たしていた舞が遂に亡霊を抑えきれずに、次々と突破されるのが見えた。
 華は優を抱えている為、戦闘できるような状態ではない。
 奈々はすぐに、マップ情報に目を向けた。すぐに援護できる位置には、誰もいない。
『――たすけて』
 通信機の向こうで、華がそう呟いた気がした。

◇◆◇

 桜井優は既に正常な五感を得ていなかった。わき腹からの出血はもはや致命的な量に達し、感覚は麻痺し、痛みすら感じなくなっている。視覚も霧がかかったようで、ぼんやりと白濁した景色しか見えない。
 このまま死ぬのだろう。そう、漠然と思った。
 何故、こんな痛い思いをして戦っているのだろう。
 きっかけがあった気がする。
 でも、思い出せない。
 大事な事を忘れたまま死ぬのは嫌だな、とぼんやりと思う。
 その時、意識の彼方から声が聞こえた。
『ちゃんと良い子にしててね』
 酷く懐かしい声。暖かく、柔らかなこの声は、果たして誰の声だっただろうか。
 遠い昔に何度も何度も聞いた事がある気がする。
『すぐ帰るから』
 あぁ、そうだ。この人は――
 何故、こんな時に嫌な記憶を思い出すのだろう。
『そう、約束。じゃあ――行くね』
 約束。遠いあの日に、あの人はそう言った。結局、その約束が達成される事はなかったけれど、今でもその約束が忘れられない。
 できれば、最期に会いたかったな、と思う。唯一の心残りだった。
 意識が闇に沈んでいく。今のが走馬灯というものだったのかもしれない、と白濁する思考の中で思った。
 その時、遥か彼方から何かが聞こえた。誰かが傷ついた音。
 止めないと、と思った。それが与えられた唯一の存在意義。
 意識が浮上を始める。暖かかった。誰かに強く抱き締められている気がした。
『助けて――』
 意識が覚醒する。
 恐怖に震える華の顔がぼんやりと視界に映った。
 戦わなくちゃ。そう思うも、手元に小銃はなかった。落下中になくしてしまったらしい。
 でも、問題ないと思った。戦い方は知っている。
 優は血で赤く染まった右手を空にかざした。暖かなものが体を包み込む。震える華の頬を左手で優しく撫でると、華は驚いたように肩を一瞬大きく震わせた。直後、華の震えがとまる。それを見て優は屈託なく微笑んだ。
 右手に光の
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