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Raison d'etre
一章 救世主
5話 黒木舞
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粒子が収束する。次の瞬間、それは何の前触れもなく爆発した。光の衝撃が闇夜を吹き飛ばす。
 それは指向性を持たず、球を描くように膨張していった。昼夜が逆転したかのように、周囲をESPエネルギーが発する光が満たしていく。
 衝撃と轟音が、周囲を包む。
 荒れ狂うエネルギーの奔流に揉まれ、優は華の腕の中から宙に放り投げられた。どうやら、華は気を失っているようだった。二人はバラバラに仄暗い海を目指して頭から落下を始める。
 まずい。そう思うも力が入らない。優は薄れゆく意識の中、誰かに足を掴まれるのを感じ、そのまま意識を手放した。

◇◆◇

 奈々は中継映像を呆然と見詰める事しかできなかった。
 瀕死の桜井優が放ったESPエネルギーの波が、その周囲に群がっていた亡霊群を跡形もなく消し去っていく。
「モニタ!」
 奈々は反射的に、電子オペレーターたちに向かって叫んだ。
 解析オペレーターたちが弾き出された数値群を素早く処理し、その影響範囲を記録していく。
 それから、落下を続ける桜井優と篠原華に気付いて、通信機に向かって命令を飛ばす。
「詩織! 二人を拾って!」
 命令通り、第三小隊長の詩織が急降下を始める。数秒後、詩織が華と優を無事に拾いあげたのを見て、奈々はほっと胸を撫で下ろした。
 続いて、中継映像を通して相当な怪我をしているように見えた第四小隊長、舞の様子を確認する。
「舞、傷は?」
「ちょっとヤバいかな……」
「綾、舞を連れていって」
 慌ただしく負傷者の搬送が始まった。電子オペレーターと解析オペレーターが先程の優が放ったESPエネルギーの暫定的な解析結果を弾き出し、騒ぎ始める。
 奈々は椅子に深く腰かけ、安堵の息をついた。
 背もたれにもたれかかり、静かに目を瞑る。
 瞼の裏に優の放った最後の光が浮かんだ。夜空を照らす暖かな光。それはまるで、地上に舞い降りた神のようだった。
 彼は本当に救世主なのかもしれない。
 ゆっくりと瞼を開き、奈々は凛とした声で宣言した。
「負傷者十六名。死者〇名。七十二名全員の生存を確認。これより帰投しなさい」
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