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Raison d'etre
一章 救世主
3話 長井加奈
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「申し訳ありませんでした」
 司令室の一角に、桜井優の言葉が反響する。
 帰投後、優は司令室に呼び出され、つい先ほどの戦闘について厳重注意を受けていた。
「……全てを私が指揮する訳ではないし、多くの判断は現場の中隊員に委ねられる。だけど、今回は君に戦闘の許可自体を与えていなかった。ここは建前上軍ではないけれど、実際には自衛軍よりも厳しい状況に置かれてるの。これからは命令を絶対に遵守しなさい」
「はい……」
 優が頷くと、奈々は厳しい表情を緩めた。
「お説教はこれでお終い。誰かが危なければ、自然と体が動くのは当然だと思う。でも、可能な限りは許可を求めてから行動するように。良い?」
「はい。申し訳ありませんでした」
 深々と頭を下げる。
「華を助けてくれてありがとう。もう行っていいわ」
「はい。失礼します」
 優は最後にもう一度頭を下げてから、司令室を後にした。
 廊下に出て、大きく息を吐きだす。
 何故、あんな事をしてしまったのだろう、と優は後悔の表情を浮かべた。
 部隊の後方から戦闘を観察するだけの予定が、気がつけば敵陣の中に突っ込んでしまっていた。
 パニックに陥っていた訳ではない。頭の中は、極めて冷静だった。それなのに、身体が勝手に動いてしまっていた。戦う事が自然な事であるように思えた。奈々からすれば、調子に乗った新人にしか見えないだろう。
 脳裏に、亡霊を銃剣で突き刺した時の感覚が蘇る。亡霊の咆哮が、何度も再生される。
 優は小さく首を振って、寮棟に戻る為に長い廊下を歩き始めた。
 寮棟前の廊下にいた数人から視線が投げ掛けられるが、意図的に無視する。
 やりづらい、と思った。優以外の中隊員は全員女性で、亡霊対策室のメンバーも女性が多い。情報部などは男性が多いようだが、特殊戦術中隊の寮棟などでは他の男性の姿を見た事がない。
 優が亡霊対策室に拾われたのは三週間前の事だった。高校に入学してからまだ五カ月しか経っておらず、特殊戦術中隊への入隊に悩んだが、小さい頃に見た奈々の仮面のような笑みが酷く気になって、入隊を決意した。奈々に対し、憧れを持っていたといってもいい。
 しかし、現実は甘くなかった。女性だらけの集団に男一人で生活する厳しさを優は想像していなかった。見えない壁があり、物珍しさで話しかけてくる人はいたが、知り合い止まりといった感じで、友人と呼べる人は一人もいない。
 厳しい訓練、過酷な実戦、孤独な生活。先は暗い。
 唯一の救いは、優にESPエネルギーの扱いに対して平均以上の才能があったことだろう。入隊時に測定したESPエネルギー出力値はどうやら特殊戦術中隊の平均値を上回っているらしかった。先程の実戦でも大きな怪我はなく、撃墜数九という大きな戦果をあげることが
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