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Raison d'etre
一章 救世主
3話 長井加奈
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できた。少なくとも足手まといになる危険性は回避できたようである。しかし、増長してると見られても仕方がない行動をとってしまったことで、信用も失墜した気がする。
 自室前に着いた時、優は暗い思考を停止した。自室のドアに誰かがもたれかかっている。着水訓練でお世話になった篠原華だった。
 華も優の存在気付き、もたれかかっていたドアから離れる。
「久しぶり。さっきはありがとう」
 そう言って、華は笑った。まだ幼いながらも整った顔立ちで、顔をあげた拍子に茶色く染められたセミロングの髪が空を舞う。十日前に会った時よりも、落ち付いているように見えた。
「十日ぶりかな?」
「うん。ねえ、今、時間あるかな?」
 華はそう言って、小首をかしげた。そうした仕草がよく似合う少女だった。
「時間?」
「うん。良かったら、ご飯一緒に食べない?」
 思わぬ言葉に、優は目を瞬いた。
「ご飯?」
「そう。さっき助けてもらったし、お礼に!」
 優はじっと華を見つめた後、不思議そうに首を傾げた。
「ぼくが、助けた?」
「あれ? 戦闘時、桜井くんが突っ込んできたから私助かったんだけど、あれ、私を助ける為じゃなかったの?」
 優は記憶を振り返って、再び首を傾げた。よく覚えていない。勝手に身体が動いて、よくわからないままに全てが終わった。味方を見ている余裕などなかった。
「えっと、必死だったからよく覚えてなくて……ごめんね」
 申し訳なさそうに優が言うと、華は微かに残念そうな表情を浮かべた。
「うん。初陣だもんね。私も初めは周り見る余裕なかったよ」
 華がフォローするように両手を振る。
「それでね、お礼に夕食ご馳走したいんだけど、どうかな?」
 それは、優にとってありがたい誘いだった。友好的な誘いを断る理由などない。優は迷わず頷いた。
「じゃあ遠慮なくお願いします」
「本当? じゃ、こっち来て!」
 華が嬉しそうに駆け出す。その時、警報が鳴り響いた。
 華の足が止まる。優は何もない天井を見上げた。
「亡霊……?」
 自然と呟きが漏れた後、ポケットに入っていた端末からも激しいアラームが鳴り響いた。出撃命令。
「うそ。また?」
 華の困惑した声。
 優と華は顔を見合わせた後、同時に頷いて、出撃ゲージ目指して駆け出した。

◇◆◇

 亡霊対策室司令官、神条奈々は対ESPレーダーに映る無数の影を見て戦慄した。
「八九、九〇、九四……」
 上擦った解析オペレーターの声がぼんやりと耳に入る。
 通常、亡霊は一度襲撃を仕掛けてくれば、次の襲撃までに二、三日の空白期間があった。にも関わらず、今回は三時間前に迎撃したばかりであるにも関わらず、白流島から新たな亡霊が飛び出している
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