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フルメタル・アクションヒーローズ
第193話 一煉寺久美という女
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く普通の子供として暮らせていたの。些細なことでいっぱい喧嘩もしたけど……楽しかったわ。そこを狙った敵対勢力に妹が誘拐されて――惨殺されるまでは」
「……ッ!」

 悲劇的な過去を、機械のように淡々と告げる母さんの姿に――救芽井の背筋が凍りつく。同様に、俺と矢村も緊張に肩を震わせた。

「か、母さん……」
「くく、久美さん、そんな過去が、あ、あったん……!?」
「……龍太。賀織君。しっかりと、見ていてあげてくれ。久美のことを」

 一方で、親父は緊張どころか母さんに労わるような眼差しを向けつつ、ただ静かにあの背中を見守っている。
 母さんの全てを、よく知っているのだろう。――当然か。夫婦なのだから。

「結局、私達は普通の女の子にはなれずじまいだった。普通になった振りをしていただけだったのよ。少なくとも、あの子を殺された時――私に見えていた現実は、それだけが全てだった」
「……お義母様……」
「それから三年間。私は妹の死が原因で病没した父に代わり、周りに言われるがまま、獄炎会の頭領となり――あの人に。龍拳に出会ったわ。彼が、私を取り巻いていた枷を――そんな枷に縋らなければ生きられなかった私自身を、打ちのめしてくれた。気持ちいいくらいに、こてんぱんに、ね」
「それで、日本へ……」
「そう。あの人は私を妻にするために一煉寺を捨て……この町に私を迎え入れてくれた。私は、やっと。やっと、普通を手に入れられたのよ。その証が亮ちゃんであり……太ぁちゃんだった」
「……龍太君、が」
「ええ。そうよ。あの子達の笑顔が。姿が。私に教えてくれた。私が一番欲しかった、幸せの形を」

 そこで、一度言葉を止めた母さんは、救芽井の方へ向き直り――かつてない、憤怒の形相を露にする。

「――それを粉々に踏みにじり、私の故郷よりも過酷な死地に、あの子達を引きずり込もうと言うのね。あなたは」
「……!」

「太ぁちゃんは、昔から思い込みが強くておっちょこちょいで――優しい子だった。だからこそ、人命を救うためというあなたの気高さに惹かれたのだと、私は思うの」
「えっ……?」
「素晴らしいことだと思うわ。自らの危険も顧みず、人々の命を助けるための技術を広めて行こうなんて。誰にでも出来ることじゃない……」

 母さんは怒りの表情のまま、救芽井を見下ろし――その顔に見合わない賛辞を送っている。親父は、既に母さんは救芽井を認めている、と言っていたが……?

「……だからこそ、そんなあなたが。清く優しい心を持ったあなたが! 普通のままで居て欲しかった太ぁちゃんを導いてしまったことが! 私は! たまらなく! 悔しいのよッ!」
「それがッ……!」

 刹那。

 ロビーの沈黙を破壊するかのように飛び出した、母さんのキックが。
 救芽井
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