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フルメタル・アクションヒーローズ
第193話 一煉寺久美という女
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の技の威力を物語っていた。
 それは、直に向き合って回避に徹している救芽井の方が強く実感していることだろう。今のところ一発も食らっていない彼女だったが、その表情は既に母さんに「?まれて」いた。

「逃げていては、敵は倒せないわよ。救芽井エレクトロニクスのスーパーヒロインが、聞いて呆れるわ」
「あうっ……きゃあ!」

 救芽井とは対照的に、激しい動きをしていながら汗一つかいていない母さんは、彼女を更に呑み込むかのように痛烈な肘鉄を繰り出す。それをかわしきれなかった救芽井は、咄嗟に顔面を守るように両腕を構え――容赦無く吹き飛ばされた。
 壁に勢いよく叩きつけられた彼女の双丘が、その衝撃を伝えるように激しく揺れ動く。

「あら。立ち上がって来ないのね。まだ、あの子達の痛みの千分の一も味わっていないんじゃないかしら?」
「くっ……」

 両腕が痺れたのか、彼女の手は雷に打たれたように痙攣し、立ち上がろうとする膝もかくかくと笑っていた。
 ――気圧されているのだ。母さんの、有無を言わさぬ力を見せ付けられて。

「……ねぇ。救芽井さん。あなた、大切な人を失う痛み――知ってる?」
「えっ……?」
「私は、知ってる。知ってるのよ」

 救芽井の戦意が失われつつあるのを悟ったのか、母さんは構えを解くと、髪を掻き上げて彼女に背を向ける。その向きは俺達にとっても死角であり、母さんの表情は見えない。

「私はかつて、獄久美と呼ばれていた。チャイニーズマフィア……獄炎会(ユーヤンカイ)頭領の娘としてね」
「獄炎会っ……て、まさか!?」
「そう。あなたが二年前に壊滅させた、麻薬密売や人身売買で当時の香港を裏で牛耳っていたシンジケートよ。――もっとも、二十五年前に父の跡を継いで頭領になっていた私が抜けた時点で、組織としては既にボロボロだったわ。当時設立されたばかりで、まだ後ろ盾が弱かった『救芽井エレクトロニクス』の令嬢だったあなたを拐って、着鎧甲冑の利権を手に入れることで巻き返しを狙っていたようだけれど……見事に返り討ちに遭って一人残らずブタ箱行きになったらしいじゃない」
「……あの頃は、所詮十六歳の女だと侮られていましたから、その隙を突いただけで……そ、それより! どうして、あの獄炎会の人が……!」

 ウチの母さんが、かつて敵対していた組織の人間だった。その告白が余程堪えたのか、母さんを問い詰める救芽井の声色は、嘆きの色を濃く滲ませている。

「――私は生まれ落ちた瞬間から、穢れた人生を強いられていたわ。父も、己の醜さを自覚していながら、既に引き返せないところにまで来ていた」
「……」
「それでもあの人は、娘達にだけは少しでも真っ当な生き方をさせようとしていたのよ。私と二つ下の妹は、中学校に入学するまでは護衛も付けずに、ご
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