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フルメタル・アクションヒーローズ
第193話 一煉寺久美という女
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がさっきまでもたれ掛かっていた壁を粉砕する。

 そして、救芽井は――

「……あなたのお気持ちなのですね、お義母様!」
「その通りよ……あなたはッ――あの子の前で、美しくあり過ぎたッ!」

 ――母さんの頭上を飛び越えてキックをかわし、背後に回っていた。母さんもそれを察知していたらしく、即座に振り向いて追撃を再開している。
 一見、先程と同じ一方的な展開にも見えるが――流れは正反対だ。救芽井に、落ち着きが戻っている。
 母さんの本音を垣間見たことで、却って余裕を得ているのだ。

「は、はわわ……どないしよ龍太、このまんまやったら樋稟が……!」

「――いや、もう大丈夫さ。今の救芽井なら、母さんにも負けない!」

 狼狽える矢村は瞳を揺らして、母さんと救芽井を交互に見つめる。俺はその小さな肩を抱き、自分自身に言い聞かせるように――あのスーパーヒロインの勝利を宣言した。

 そして、その宣言に沿うかの如く。

「美しくなんかない! 私は、ワガママで自己中心的で! 下心もいっぱいで、お義母様の想いにも気づかなくて! そのくせ自分の正義を押し通す勇気もない! それでもッ――!」
「ちぃっ……!」
「――あの人の、今の願いを! あの人が、今やろうとしていることを! 支えることは出来る! 私だって、私だって――」

 背後に向かって放たれた後ろ回し蹴りを、翡翠の少女は……艶やかな肢体をしならせるように躱し。
 その勢いのままに、宙を舞う。

 まるで、曲芸。

 更に、滑らかなラインを描く白い脚は、重力を凌ぐ力に吸い寄せられるかのように天井へ向かい、一瞬のうちに彼女の体勢を反転させた。

 蒼い瞳が向かう先は――湧き出る激情を抑えきれず、唇を噛みしめる妙齢の仇敵。
 その一点だけを見下ろし、彼女は逆さの姿勢から全力で天井を蹴りつける。自らの身体を、母へぶつける砲弾として撃ち出すために。

「――龍太君がッ! 好きなんだからァァァッ!」

 そして彼女は、全ての想いを気勢に変えて。
 両手を十字に組む母に、全身全霊の飛び蹴りを放つ。

 それを受けた瞬間。

 母さんの頬を伝った一筋の雫を、俺は見逃さなかった。

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