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フルメタル・アクションヒーローズ
第180話 予期せぬ流血
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は深く息を吸い込み――勢いよく地を蹴る。こちらが見えていない将軍の背後、すなわち後頭部の急所「脳戸」を狙って。

「……ホワチャアァアアァーッ!」

 経脈秘孔を突くべく、打ち出された全力の突き。その赤い拳は、無防備な将軍の後頭部へ矢の如く迫り――

「フンッ!」

 ――将軍の肘鉄で、跳ね返されてしまった。

「がっ……!?」

 何が起きたのか、その瞬間にはわからなかった。

 こちらが見えていない将軍が、背を向けた状態で左から肘鉄を振るい、マスクを貫通する程の衝撃を俺の鼻頭にブチ当てた。
 その結末を悟る頃には、俺は仮面の中で鼻血を撒き散らしながら、激しく吹っ飛び――後頭部を強打していたのだった。目に映る天井が明滅し、俺の意識を混濁させていく。

 絶対に行ける。そう確信していた攻撃を破られたショックと、不測の事態に対応仕切れなかった応用力のなさ。その二つに正常な判断力を奪われていた俺は、受け身すら取れずに墜落してしまったようだ。

「りゅっ……龍太君ッ!」
「龍太ぁあっ! いい、いけん、こんなんいけんてっ!」
「二人とも、落ち着きなさいな! まだ……終わってはいなくってよ」
「……今の一撃、軽くはなかった。先輩のダメージも……」

 そんな無様な俺の姿に、救芽井と矢村が悲鳴を上げる。久水先輩と四郷は年長なだけあって、冷静に彼女達を宥めていたが――劣勢であることは否定していなかった。

「や、やった! ……の、かな」

 一方、将軍の反撃に歓喜しているはずのダウゥ姫は、どことなく戸惑いの表情を浮かべ、視線を泳がせている。さすがに、今の光景は痛々し過ぎたのだろうか。

「りゅ、龍亮さん! これは……!」
「……なーる。あの将軍さん、龍太がどこから来るかをあらかじめ予想してたんだな。それでアイツが地面を蹴る音を頼りに肘鉄をキメた、と。……しかし、あの天井の足音は……?」

 翻って日本側のギャラリーの中では、兄貴が古我知さんの動揺を尻目に、呑気に解説を垂れていた。
 音を頼りに、だって……? じゃあ、将軍は目で追わずに俺を捉えたってことなのかよ。

 なんて無茶苦茶な技量だ……。伊達に軍人やってるわけじゃないみたいだな。
 ――だけど種さえわかりゃ、やりようはあるはず。視覚で撹乱してもついて来るなら……聴覚も惑わすまでだ!

 俺はこちらを見下ろす将軍を睨み上げながら、勢いよく飛び起き――もう一度周回を始める。バッテリー残量を考えれば、この作戦が使えるのは今回で最後だ。

 一度破られたからと言って、諦めてはいられない。次の一発こそ、通用させて見せる。

「既に見切られた技で再度挑む、か。いかに優れた資質と装備を持っていようと、所詮はまだ若僧だったということかな」


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