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SAO−銀ノ月−
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なくなるのかも知れないのだから。

「あたし……」

 そしてショウキが母から何も聞いていないのなら、自分で今のことを伝えるしかない。震える唇を自覚して、どうあっても彼の表情を見ないようにしながら。それでも自分自身の表情は、自然といつものように、意味もなく笑顔を形作っていたけれど。

「――SAOのことが、何も思い出せないの」

 あのデスゲームに囚われた日のことも。初めてあのデスゲームに抗おうと、大事だった何かを始めた日のことも。報われた日のことも、笑った日のことも、喜んだ日のことも、泣いた日のことも、苦しんだ日のことも、VR空間に慣れてきたことも、友達のことも、何か大事なものを手に入れた時のことも――彼と、出逢った日のことも。

 何もかも。思いだそうとすれば、あの夢の日に見た何もない空虚な空間で永遠に堕ち続けて――

「ごめん、なさい」

 結局、何がごめんなのか分からないまま、謝ることしか出来なかった。

「…………」

 ――その時、ショウキはどんな表情をしていたのだろう。リズにはどうしても、そんなささやかな疑問を解き明かすことは出来なかった。


「リズさんが……?」

 ……病院でリズからそのことを聞いた後、彼女はこちらに会わせる顔がないように立ち去ってしまった。それを追うことも出来ずに立ち去った俺は、リズの様子がおかしいと気づいていた友人たちに、ALOにて事情を話していた――1人でリズの事情を抱え込めなかった、ということもあるが。

「理由とか、原因とかは分かるのか?」

「今、専門の病院で検査してるらしい」

 クラインにエギル、レインを除くいつものメンバーの前で、懺悔するように語りだした。リズの近所の診療所では原因などは分からず、今まさに病院で検査が行われているらしい。ソファーに座って自分の不甲斐なさに拳を握り締める俺に、仲間たちから心配そうな視線が晒されていて、慌てて拳を解いた。

「だけど、全く心当たりがない訳じゃない」

「……どういうこと?」

 シノンの返答に対して、俺は顔を上げて先日のことを話した。ノーチラス――このオーディナル・スケールでは、エイジと名乗っている彼の襲撃。記憶喪失についても、リズが思い出せないのはあの浮遊城のことのみで、あの青年はその件の何かを知っているような口振りだった。

「なるほど。そのエイジって奴が、何かを狙ってるかもしれないってことね?」

「そいつがリズさんの記憶を奪ったってことなんですね!」

「それは……まだ分からないけど、何かの事情を知ってるのは確かだと思う。アスナはどう思う?」

 現時点では目的も理由も方法もまるで分からないが、今はあのエイジと呼ばれる青年しか手がかりはない。決めつけるように言ってのける
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