暁 〜小説投稿サイト〜
ダタッツ剣風 〜悪の勇者と奴隷の姫騎士〜
第二章 追憶のアイアンソード
第27話 母との別れ
[4/5]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
わけではありませんが」

 報道陣は冷淡な口調で、母を責め立てるような言葉を並べて行く。そんな追及にさらされ続けている彼女の横顔は、無惨なほどに痩せこけていた。

(母さん……!)

 それを目にすれば、母がいかに苦労してきたかが容易にわかる。わかってしまう。
 とにかく、終わりにしなければ。一刻も早く母の元へ帰り、無事を報告しなければ。
 そう焦る竜正は、後ろから報道陣に囲まれた母を救おうと、一気に駆け出して行く――が。

「大丈夫です。あの子は強くて優しい子ですから。……いつかきっと、元気に帰ってくる。私は、そう信じています」

「……ッ!」

 にっこりと笑顔を浮かべて、報道陣にそう宣言する彼女の姿を前に、踏みとどまってしまった。

 勢いを失った竜正の疾走は、やがて歩みとなり……棒立ちとなり。最後は、両膝を地に着ける結果となっていた。

 母は……信じている。自分が、あの日と変わらないままの、「優しい子」であると、信じている。
 自分のためだけに多くの命を奪った帝国勇者の、自分が――「優しい子」だと。

(ち、違う。違うんだ。違ったんだ。母さん、俺は優しくなんか……優しくなんかなかったんだ……!)

 気がつけば、竜正は己の頭を両手で抱え、うずくまっていた。あれほど帰りたかった世界なのに。あれほど会いたかった母が、目の前にいるのに。
 今はただ、その暖かさが。優しさが。痛い。

(……! あ、ああ……!)

 ふと、竜正は己の両手を視界に映し――戦慄する。
 彼の両手からは……血が溢れていた。自分の血ではない。

 自分が殺めた人々の返り血が、濁流となり、この手に溢れている。
 あの、アイラックスの血も――きっと。

(だめだ……帰れない! ここには帰れない! 俺は、俺は母さんが知ってる竜正じゃないんだ……ただの、冷たい人殺しなんだ!)

 その赤い幻覚に、竜正の心は打ち砕かれていた。住む世界を変えても、剣を捨てても、一生罪からは逃れられない。
 あの戦いの日々は、死ぬ瞬間まで竜正の記憶につきまとうのだ――と。

(ごめん……母さん。俺、何も守れなかった。あの世界の人々も、フィオナの笑顔も、母さんの幸せも……)

 自分という人間は、こうなってしまった。それはもう、変えようのない事実。

(だから……俺は……)

 竜正は瞳から光を失ったまま、静かに立ち上がる。そして――

「……竜正?」

 ――息子の悲しむ声を、聞いたような気がして。
 母が振り返った時には。

「どうしました、伊達さん?」
「あ……いえ、なにも……」

 竜正は再び、この世界から姿を消していた。

 ――心の底から、願ったからだ。

 この世界から。自分を。消し
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ