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蒼き夢の果てに
第6章 流されて異界
第150話 その火を……飛び越えるのか?
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 ほんの五分前まで、この場所は日本のごくありふれた宿の露天風呂であった。
 人工の光と明るすぎる夜空により照らし出された其処は、白い湯気が霧のように立ち込めた一種独特の……ただ、俺一人しか存在しない孤独な世界。

 しかし――

 しかし、ここに彼女が現われてからは変わって仕舞った。重要な()()が変わって仕舞ったのだ。
 当然、風景自体が変わった訳ではない。仲冬の夜にしてはかなり珍しい部類の、風のない穏やかな夜であった。確かに俺の目の前には普通に考えるのなら居てはならない存在が一人、身に何も纏う事もなく、ただ立ち尽くすのみ。……と言う異常事態ながらも、それでも、その事自体は通常の世界でも絶対に起きない、奇跡に類する出来事と言う訳ではない。

 匂い……ではない。匂いに関して言うのなら、ここは相変わらず温泉に相応しい臭気と言う物を感じさせる場所であった。
 当然、温度でもない。いや、彼女が現われた瞬間、気温が一、二度上昇したように感じたのは確かだが、それはこの異常事態に小市民的な俺がそう感じたに過ぎない。
 ここ……弓月さんの親戚が営む露天風呂に降り注ぐ、明るすぎる月の光や、溢れんばかりの星々の姿も、西宮に居ては感じられない物なのだが、それはこの地の呪いが祓い清められてからはずっと続いている当たり前の夜の姿であった。

 変わったのは……。

「有希。オマエが相手をして居る連中を舐めてはいけないぞ」

 月明かりが今、ふたりだけを照らし出すこの場所。
 周囲を取り巻く気配。開放的であった場所が、妙に閉ざされた空間のように感じさせるようになった事について気付いた風もなく、そう話し続ける俺。

 そう。確かに彼女に人間と同じ生殖能力が存在している理由で、今、彼女が話した内容……自らが、邪神の贄であると言う可能性も低くはないでしょう。
 歴史が改変される前。ハルヒと名付けざれし者との接触が為されたままの状態。黙示録へと一直線。異世界よりクトゥルフの邪神が大挙して押し寄せた挙句に、滅びて終った世界と同じ軌跡を辿ろうとしたままの時間軸ならば。

 しかし、この世界はその滅びて終った世界の轍を踏まないように、其処から発生したやり直しの世界。この世界の防衛機構はクトゥルフ神族の暗躍に関して見逃す可能性は低いと思う。
 ここにこうして、俺と言う、本来この世界には居ないはずの人間が異世界より召喚されて存在している。更に、ソイツが奴らの企みを大枠では阻止した事でも証明されていると言っても良いでしょう。

「つまり、奴ら。俗物の可能性の高い名づけざられし者(ハスター)だけならいざ知らず、這い寄る混沌(ニャルラトテップ)が絡んで来て居る以上、一度、何らかの方法で歴史の改竄(かいざん)、修正を行ったとしても、もう一度
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