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藤崎京之介怪異譚
外伝「鈍色のキャンパス」
0.prologue
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オールは廃れたか。大体、お前だけだぞ?バロック・ヴァイオリンとガンバの組み合わせなんてのは。ガンバをやるには、やはりヴィオールの知識も重要だ。眠らんでもいい。明日迄にやってこい!」
「そ、そんなぁ!」
 鈴木の叫びも虚しく、椎名教授はそのまま立ち去ってしまったのだった。
 尤も、あの教授も見込みのない人間は切り捨てるタイプの方だから、何だかんだ言っても鈴木に期待してるんだろう。
「と、言うわけで小林君。君も眠らずにやっといで。ホント、遅れたら…フフ…。」
 椎名教授と鈴木のやり取りを見て、庄司教授はニヤリと笑みを溢して小林に言った。
「教授…一体何を…。」
 小林は本気でおののいているご様子。庄司教授はそんな小林の表情を見て、再び笑みを溢して立ち去ったのだった。ま、いつも遅れる二人が悪いんだがな。
「お二方?特大の不幸が到来する前に、その不幸が来ないように努力しないとな。」
 俺は溜め息を吐きながら二人の肩に手を置いてそう言った。
 すると二人は顔を引き攣らせ、脱兎の如く走り出したのだった。
「あの二人の教授、本当に何やるか分からないしなぁ。ま、幸運を!」
 俺はそう呟くように呆れ顔で言うと、そのままサークルへと急いだのだった。
 俺が着いた時、そこでは既に演奏が始まっていた。演奏の邪魔にならないように入ってみると、通奏低音でチェンバロを演奏していたのが…ピアノ科の有川恵教授だった。
「あ、やっと来たわ!藤崎君…早く代わってもらえるかしら…。」
「はい…。まさか…有川教授が入ってるとは…。」
 一旦演奏を中断して俺が有川教授と代わると、有川教授は溜め息混じりにこう言った。
「そこで理賀ちゃんに会ってね…ここへ連れて来られたのよ…。」
「そういうことでしたか…。」
 理賀ちゃんとは、ブロックフレーテとバロック・オーボエを専攻している松本理賀のことだ。有川教授とは親戚で、そのせいで俺のいない時によく連れて来られるのだ…。
「お疲れ様でした…。後は俺が入りますんで、教授は仕事に戻って下さい…。」
 俺がそう言うと、有川教授は「それじゃ!」と言って、逃げるように部屋を出ていったのだった。

 講義に出てレポート書いて、こうしてサークルなんかで演奏して…これが大学での日常だ。
 だが…そんな普通に、ある日を境に異質なものが混ざり始めた。それが大学全体を巻き込む惨事へと発展するなんて、この時は誰一人として考えもしなかった。
 それが…俺達の青春の一頁に、重く暗い影を落とすことになるのだ…。




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