暁 〜小説投稿サイト〜
藤崎京之介怪異譚
外伝「鈍色のキャンパス」
0.prologue
[1/3]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話

「京、お前どうする?俺はこれからサークルに顔出すけど。」
 そう声を掛けて来たのは、親友である河内だった。
「そうだなぁ…。レポートも上がるし、俺も久しぶりに顔出すかな。」
 俺は藤崎京之介。この音大で古楽を学んでいる。
 古楽…とは、読んで字の如し。古い音楽だ。
 現代の音楽は、a=440Hzで楽器が統一されているが、昔は結構バラバラだ。バロック時代の鍵盤一つ取っても、国や町が違うと大違いだ。a=380〜465Hzと調律にバラつきがあり、大きさもまちまちだったのだ。
 ま、そこら辺も含め、古楽ってやつは面白いんだが…説明は長くなるから止めておこう。
 因みに、俺はオルガン、チェンバロ、そしてリュートを学んでいる。ヴァイオリンなどの弦楽器も小さい頃に学んでいたが、今は専ら鍵盤とリュートが中心。
 今俺の隣を歩いている河内 慎の専攻は、バロック・チェロとヴィオラ・ダ・ガンバ、そしてコントラバス。全て低音楽器で、バロック時代では、鍵盤やリュートと共に通奏低音群として演奏することが主な楽器だ。その為か、俺と河内は出会って直ぐに意気投合し、今のサークルを作ることになったのだ。この大学では、バロックを主軸にしているサークルはなかったためだ。
「さて、三階まで登りますか。」
「慎。お前、今日はガンバか?」
「そうだ。京が来るって分かってたから、ガンバ・ソナタをやりたくてな。」
「この間も演奏したじゃないか…。」
 河内は、そんな俺の言葉に「良いじゃんか。」と笑いながら答え、そのまま階段を上がって行ったのだった。
 この音大は全三棟で、それぞれ四階建てになっている。中央棟にはオルガンを備えた大ホールがあり、西と東の棟には小ホールがある。基本的に、東棟は古楽、その他は現代楽になっている。無論、それぞれに講堂も練習室もあるため、古楽と現代楽の学生が顔を合わせてレッスン…ということはない。
 これだけ言えば、この音大がどれだけ大きいか理解してもらえるだろう。
 だが…難点が一つ。東西の棟にはエレベーターが無いのだ…。音楽も体力勝負と言うわけだ。
「あ…宮下教授。今日はいらしてたんですね。午前の講義は休講だったので、今日はいらっしゃられないかと…。」
「藤崎君か。すまんな、オルガンの試演を頼まれて行っとったんだ。君はこれからサークルかね?」
「はい。河内も行きましたし、レポートも上がりましたから。」
 今話しているのは、俺がオルガンとチェンバロを師事している宮下善正教授だ。そろそろ引退といる歳ではあるが、大学側に引き留められて八十歳までの契約をしているとかいないとか…。
 世界的にも著名な方で、特にオルガンではブクステフーデとパッヘルベルなどのオルガン全集を録音していて、バッハのオルガン全集は二回も録音を行っている。無論、チェンバロ演
[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ