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幸福の十分条件
別の世界
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『天は自ら行動しないものに救いの手を差し伸べない』──シェイクスピア



 耳障りな電子音で俺は目が覚めた。部屋の外にあるスピーカーからの、朝を告げる合図の音だ。ご丁寧に一分近くは鳴り続けて、必ず毎朝叩き起こしてくれる。非常に鬱陶しい。
 起きたには起きたが、眠気がまだ周囲をうろついていた。急ぐ理由もないのでしばらくは寝台にしがみついて、眠気がどこかへ行くのを待つ。大体、五分ぐらいしたところで動く気になった。
 妙に硬い寝台から降りて、寝癖も確認せずに部屋の外に出る。一歩出ればそこは通路だ。なんの飾り気もない鉄製の壁に床。大人が四人、横に並んでも通れるぐらいの幅があった。
 やたらとガタイのいい男に女が通路を歩いていっている。俺もその後ろについて同じ方向へ歩きだす。
 しばらく歩いて到着したのは広大な部屋だった。長テーブルに椅子が配置されていて、すでに五十人近くが座って食事をしていた。そう、ここは食堂だ。
 いるのは男がほとんどで、女は数えられる程度にしかいない。基本的には誰もかれもが鍛えられた肉体を持っていて、見ていて暑苦しいぐらいだった。
 指定席というわけではなかったが、たいてい誰がどこに座るかはなんとなく決まっていた。俺の席は端のほうで、隣には仲が良いらしいグループが陣取っている。
 厨房とはカウンターのようなもので繋がっていて、そこから直接、食事を受け取る仕組みになっている。俺は食事の乗せられたトレイをカウンターで受け取ってから席に座り、朝食を食べ始めた。味はそこそこだ。だが、以前のような食事がときおり恋しくなる。
 そう、俺がここに来たのは、つい一ヶ月ほど前のことになる。
 信じがたいことだが俺はある日、目を覚ますと森の中にいた。確かに家の自室で寝ていたのだが知らない間に知らない場所に来ていたのだ。
 そうして森の中で迷子になっているところを、この集団の人間に拾われた。彼らは『ヴェリタス』という名の、いわば傭兵集団だった。
 彼らに対して事情を話していくうちに、俺はとんでもない事実に直面した。俺が来た場所はどうやら異世界らしかった。証拠として、この世界にある国はどれもこれも知らない名前で、地形もまったく違う。俺の知っていることがほとんど通用もしなかった。
 そんなこんなで俺はこの組織に居候することになった。傭兵集団だというのに困っている俺は助けてくれるらしい。入るときにこの組織の何か崇高な理念だかなんだかを聞かされたが忘れてしまった。
 なにはともあれ、俺はちょっとした憧れが叶ったわけだ。初めは困惑したが、今じゃすっかり慣れてしまった。そして思っていたとおり“俺の世界”というものに、大きな変化はなかった。
 そう、世界が変わろうとも、そこにいるのが人間だということは変わらないし、俺が俺だというのも変わってはく
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