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幸福の十分条件
別の世界
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れない。元の世界でさえ集団に馴染めなかった俺が、場所が変わった程度で馴染めるわけがなかった。実際、今も俺はひとりで食事をとっていた。一ヶ月もして、こちらでの生活に慣れたにも関わらず、だ。
 初めこそ異世界にきたということに対して、漠然とした興奮と期待があった。それらが消えるのに大した時間は必要なかったが。無口で愛想が悪ければ、人が寄りつかないのはどこも同じ。当然のことだ。
 ただ、大きな変化はなかったが小さな変化ならばあった。食事を終えて席を立ち、自室に戻ろうと通路に出たところで俺に声をかける男がいた。
「よう、雄二。おはよう」
 声のしたほうを向けば、そこにいたのは俺と同じような黒髪の短髪に茶色の瞳、と日本人の見た目の男だ。背は俺より少し低く、身体つきも細身、と近かった。はっきりと違うのは顔か。陰気な顔つきの俺とは違い、なんとなくだが快活な感じのする顔つきをしている。ちょうど今も、人当たりの良さそうな笑顔を浮かべていた。
 こいつの名前は怜司という。俺と同じように異世界の日本から来たらしい。歳も十七で、たまたま一緒だ。そのあたりのせいか、俺にやたらと話しかけてくる。
「挨拶したんだから無視すんなよなー」
 しばらく俺が黙っていると怜司が不満げな声をあげてくる。
「…………あぁ、おはよう」
 このまま自室に入ろうかとも思ったが、わざわざ無視することもない。そう思って、挨拶だけは返した。そうすると怜司は満足げに笑うのだ。
 よく話しかけてはくるのだが、正直言って俺はこいつが苦手だった。嫌いというわけではないが、理解ができなかった。俺のような人間なんて放置しておいてもなにも困りはしないというのに、わざわざこうやって見かけるたびに声をかけてくる。なんの得があるのかさっぱり分からない。
 こちらから話すこともないので、そのまま自室に入ろうとしたところで、怜司の後ろから別の男が出てきた。
「あ、雄二だ。おはよ〜」
 ひらひらと手を振りながら、そいつは少し間延びしている妙に高い声で挨拶をしてきた。
 俺や怜司と同じ短い黒髪の日本人で、学校によくある学生服を着ている。背丈は怜司より更に低くて男にしては小さい部類に入るだろう。服装が大きめなせいか、体型はよく分からない。顔つきが俺や怜司よりは丸みを帯びているので、恐らく肉つきは俺たちより良いのだろう。
 こいつは蒼麻といって、俺たちと同じ異世界出身だ。どういう偶然か、歳まで同じだ。こいつも俺にたまに話しかけてくるが、怜司ほどじゃなかった。むしろ、怜司に妙に絡んでいる印象がある。
 今も、どういう理由なのか知らないが、怜司に横から抱きついている。正直言って気持ち悪いが、俺はそこになにか違和感を覚えていた。なんなのかは分からなかったが。
「ほーも、ほーも♪」
「あーもう、よせ、やめろ! 離せよ
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