暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアート・オンライン‐黒の幻影‐
第3章 黄昏のノクターン  2022/12
28話 水都の陰
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で辿り着く。
 昼に一目見た時からさぞかし活気に満ちた場所なのだろうかと期待してみたものの、意外と予想は外れ、声はあれども密やかなものだ。というより、度々聞こえてくるのは思案に暮れ、頭を悩ますような呻きに似たNPC店主の悲痛な声。イメージとはだいぶ遠いと言わざるを得ない。


「リンさん、ここの薬草なんですが、みんな痛みが酷いですね。この種類は新鮮な状態じゃないと薬効が得られないんですけど………」


 困ったようなティルネルの言葉を聞きつつ、赤いほうれん草みたいな薬草を手に取ってみると、本当にしなびている。葉も圧力を受けたようなシミが目立って、とても売り物になるような見た目をしてはいない。日本のスーパーには決して並ばないであろう劣悪な鮮度は素人目でも不可解に見える。
 しかし、ふと隣の露店を見ると、同じ種類の新鮮な薬草が店頭に並んでいるではないか。


「ふうん、でもこっちはキレイなもんだ、ろ………って、一束で六十コルは高過ぎか………そっちのは四コルだしな」


 得意になってティルネルに渡したところ、残念なことに値段が張ることに気付き、今回の購入は見送ってもらうことにする。


「他のお店もだいたい同じみたい。安い商品はみんな傷みが酷いし、鮮度の良い商品は異常なくらい高いわね」


 そして、クーネの話ではこの二店舗に限ったことではないらしい。もしこの価格変動が武器防具やポーション類にまで波及しているとすれば、この攻略は大いに停滞することだろう。そういった意味では、プレイヤー全体への影響は計り知れない。仮に今回だけ資金面の困窮を度外視してボス戦に挑めば、次の階層における装備強化やアイテム補充が遅れ、現在の好調な攻略ペースに影を落としかねない。この階層でのイレギュラーは地形と出現モンスターの変化だけではないのだろうか。

 ………とはいったものの、現状ではどうすることも出来ないので、市場の雰囲気を堪能したことにして切り上げることにする。加えて、レクステリウムとの戦闘による疲労も考慮して、それぞれの拠点で休息を取るということで決定し、各々帰宅する。

 それでもなお、俺の経験則と第六感はこの現象を注視するよう呼びかける。しかし、繋がることのない情報の点は脳内を彷徨うまま、ついには睡魔に呑まれ沈んでいった。
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