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至誠一貫
第一部
第六章 〜交州牧篇〜
八十六 〜夜戦〜
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 その数字に、全員の表情が強張る。
 今回動員できたのは、三万に過ぎぬのだ。
 異国と境を接している以上、守備兵までも総動員する事は出来ぬし、それでは領内で不測の事態が起きた時に立ち行かなくなる。
 如何に賊相手とは申せ、三倍以上の敵と戦う事となれば、皆の反応も至極当然と言えよう。
「でも、黄巾党みたいに賊の集まりなら怖くないのだ」
「いや、それは違うぞ鈴々」
「にゃ? どういう事なのだ、星?」
「今回の反乱だが、いつもの賊徒とは違うようだ。そうであろう、疾風?」
「その通りだ。官軍から奪った物があるにせよ、装備が賊としては充実しているのが気になる。それに、ある程度の統制も取れている印象がある」
「どうやら、区星さん以外に能力のある指揮官がいると見た方が良さそうですねー」
「となると、寡兵を以て討ち破るのは困難……という事ですね」
 これだけの顔触れが揃っていて、兵も鍛え上げられた者ばかり。
 だが、数の暴力にはどうにもなるまい。
 力任せに押せば、一度や二度の勝利は得られようが、そこで息切れする事になる。
 それに、ここで多大な損害を被れば、この不穏な状況では取り返しのつかぬ事になると言えよう。
「賊の主な者は疾風の調査を待つより他にあるまい。だが、それまでの間を無為に過ごす訳にはいかぬな」
「はい。兵糧にも限りがありますし、士気にも関わります」
「まずは、敵に痛撃を与えたいが。稟、策は?」
「はっ。今、賊軍は勢いに乗っています。これを利用します」
「にゃ? どういう事なのだ?」
「簡単な事ですよ。総勢では我らの三倍以上だとしても、分断されればどうなると思いますか、鈴々?」
「半分だとすれば、敵は五万になるという事か?」
「そうです。武陵郡と零陵郡、その両方を一度に攻めているという事は、向こうから二手に分かれているという事。この連絡を断ち切ってしまうのです」
「だが、稟。裏を返せば挟み撃ちに遭う危険もあると言えぬか?」
「そうですね。ただし、賊がそこまで思い切った決断を出来るかどうか。どう思いますか、彩は?」
「ふむ……。私ならばそうするが」
「私も同感だ」
「彩ちゃんと星ちゃんならばそうでしょうねー。ただ、賊さんにお二人ほどの度胸があるかどうかとなると、また別問題かとー」
 この四郡に、そこまで名を残した将がいたという記憶はない。
 ……いや、一人いるな。
「魏延という名に心当たりのある者は?」
 私の問いかけに、皆が首を傾げる。
「稟や星も記憶にないか?」
「はい。初めて耳にする名です」
「私も知りませんな。何者なのです、そ奴は?」
 以前、劉表麾下の主立った者を調べた中にも、その名はなかった筈だ。
 となれば、賊軍にいる可能性は低い。
「疾風。当てになるかどうかはさておき、
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