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至誠一貫
第一部
第六章 〜交州牧篇〜
七十六 〜新天地〜
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「むんっ、ふっ!」
 翌朝。
 私は日課の為、庭に出ていた。
 無心になり、兼定を振るう事。
 皆のお陰で、私自らが剣を振るう機会は稀だが、これは武人としての矜持。
 それに、長年の習慣である以上、急に止める事はあり得ぬ。
 ……無心と言えども、周囲には気を配っている。
 没頭する余り、己を危機に陥れては何の意味もないからな。
「そこで隠れて見るようなものでもあるまい。此方に参れ」
 殺気や悪意の類ではなく、よく見知った気配ではあったが、素知らぬ顔をする必要もあるまい。
「ふふ、お早いのですね」
「紫苑か。お前こそ、早いな」
「もともと、これが習慣ですわ。歳三様は、毎朝これを?」
「うむ。特にこの兼定を手にしてより、これがないと一日が始まった気がせぬのでな」
「そうですか。やはり、まだまだお若いですわね」
「……そうかな?」
「ええ。だって、昨夜も愛紗ちゃんと一緒にお休みだったのでしょう?」
 妖艶な笑みを浮かべる紫苑。
「……よく知っているな?」
「うふふ。それは、風ちゃんとか星ちゃんが、歳三様の事、いろいろと語ってくれますから」
 ……だいたい、想像はつくが。
 無駄やも知れぬが、一度釘を刺しておかねば、話に尾鰭がつきそうだ。
「こんな時代ですもの。歳三様のような、強い殿方は貴重ですから。慕われるのも当然ですわ」
「だが、紫苑。お前の亭主もそうだったのではないか?」
「さあ、どうでしょうか。ただ、歳三様とはいろいろと違う人でした」
 遠い目をする紫苑。
「……済まぬ。辛い事を思い出させてしまったか」
「いえ、大丈夫ですわ。それに、私には璃々がいますもの」
「強いな」
「ふふ、娘が居て弱音は吐けませんわ。歳三様も、お子が出来ればきっとわかりますわ」
「子、か。……考えた事もないな」
「あら、あれだけたくさんの娘達が周りに居るのですから。時間の問題ですよ」
 ……むむ、反論出来ぬ。
「うふふ、その時は私で宜しければ、いろいろとお教えしますわ」
 これが、母性というものか。
 実の母を早くに亡くした私には、まだまだ未知の世界としか言えぬな。
「さて、汗を流して参る」
「そうですか。では、お背中を拭きましょう」
「む? 別に必要ないが」
「ふふ、ご遠慮なさらずに」
「……いや、遠慮している訳ではないのだが」
「殿方の裸体なら、見慣れていますから平気ですわ」
 ……話が噛み合っておらぬぞ。
「紫苑」
「はい?」
「その辺にしておけ。さもなくば、物陰から見ている皆が黙っておらぬぞ」
 星に彩(張コウ)、殺気を抑えているつもりであろうが、あれで気付かぬ方が無理というものだぞ。
「……残念ですわ」
 聞き捨てならぬ台詞が聞こえたようだが、気のせいであろう。


 士燮に
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