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至誠一貫
第一部
第六章 〜交州牧篇〜
七十六 〜新天地〜
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すから」
 以前、星から寝物語に聞かされてはいたが、その規模には改めて驚きを禁じ得なかった。
 それは、魏郡で内政全般を取り仕切っていた愛里も同じらしい。
「朝廷に献上する品々だけで、これだけあるのですか」
 手許に広げた、竹簡に記された一覧。
 翡翠や真珠と言った宝石類だけでも、列挙に暇がない。
 南方でしか取れぬ木の実や果物も豊富との事。
 色鮮やかな布や、その他にも珍品が数多く並んでいた。
「無論、全てを洛陽に送っている訳ではありません。あまりにも遠すぎますし、輸送費も馬鹿になりません」
「では、益州や荊州、揚州で捌いているのですね?」
「そうです、徐庶さん。エン州や徐州、冀州などからの引き合いもあるのですが」
「つい先般まで黄巾党が跋扈していた以上、遠くへ運んでも得られる利よりも失う利の方が大きい、そうだな?」
「はい。……土方様、一つ宜しいですか?」
 と、士燮が改まって聞いて来た。
「何か?」
「いえ。土方様は常々、ご自身を武人と仰せですが。利にも聡いようにお見受けします、商いのご経験がおありですか?」
「些か、な。石田散薬と申す服用薬が、実家の生業であった」
「……その名前、聞いた事があります。あれは、土方様の考案だったのですね」
 どうやら、いつの間にかこの辺りにまで広まっているようだな。
 蘇双め、予想以上に商売上手のようだ。
「では、率直に申し上げます。仰せの通り、この交州で得られる利益は莫大なものです。嘗て、この地が独立を図ったのも、その豊かさが一因だったようです」
「うむ」
「……州牧は勿論、一官吏ではあります。ですが、今の朝廷はそれを御するだけの力はありますまい」
 あまり穏やかとは言えぬ士燮に、その場の空気が張り詰める。
 彩など、周囲を頻りに見回している。
 気配など感じぬが、それ程士燮の発言は不穏当と言えた。
「つまり、土方様の匙加減一つで、如何様にも財を蓄え、力を持つ事が可能な地なのです」
「…………」
「土方様は、この交州をどうなされるおつもりでしょうか? 存念をお聞かせ下さい」
 私を試すつもりか?
「どうする、か。私は陛下よりこの地を任されたのだ、その職務に服するまでの事だ」
「では、あくまで朝廷の命に従い、この地を支配する事に専念すると?」
「いや。陛下の命、それは支配ではあるまい。この地の庶人を守り、互いに共存する事と思っている」
「何故、そう思われるのです? 庶人とは支配される存在に過ぎませんが」
「……それが、お前の認識なのか?」
「いえ、私のではありません。代々、この国を支配してきた方々の認識です」
「……あの、士燮さん。あなたご自身も、そのようにお考えなのでしょうか?」
 いつになく、愛里の顔が険しい。
 いや、普段の愛里ならば、あ
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