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藤崎京之介怪異譚
case.6 「闇からの呼び声」
U 12.6.PM1:44
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師だったのは、もう四十年以上も前の話じゃないか。母さんと結婚するため音楽へと本腰入れるからって辞したんじゃないか。まぁ、それで信仰心が無いってわけじゃないけど…父さん、教会音楽は苦手じゃなかったっけ?」
「いや、別にそうじゃない。牧師だった頃、オルガンも指揮もした。演奏家がいなかったからなぁ。無論、バッハやテレマンなんかのバロックの宗教曲は多く演奏していた。」
 一般的に…牧師がオルガンや指揮はやらないんじゃ…。そこまで人手不足の教会だったってことなのか…?いや…単に父が音楽をやっていたからなんだろうが…。
「で、今回は演奏するつもり?」
「勿論!トマス・タリスのエレミアの哀歌を演奏したいと考えてる。」
 トマス・タリス。この人物はルネサンス時代1505年生まれで、イングランド出身の作曲家兼オルガニストだ。エリザベスT世に仕えたことでも知られている。
 彼の作風は素朴で、後のバロックのような華やかさはないが、その清純で慎ましやかな音楽は聴くものに深い信仰心を思い立たせ、不思議と安らいだ気持ちにさせてくれる。
「父さん…ここ近年、ルネサンス音楽なんて演奏したのか?」
「いや、全く振ってない。」
「せめてモーツァルトのミサ・ブレヴィス位にしといた方がいい…。」
 何だか先が思いやられる。この人は一体何しに来たんだか…。そもそも、ルネサンス音楽だったらアウグスト伯父の専門だ。わざわざ父が演奏する必要性はないのだから、大人しく古典派以降の作品を振れば良い話だ。
「そうしたいんだが、今回は少なくとも五つの教会で無伴奏声楽作品を演奏しなくてはならない筈だ。空間に遺された記録が古すぎるからな。当時の宗教曲は、基本的に無伴奏声楽作品だからなぁ。」
「一応は考えてるんだ…。」
 俺が父にそう半眼で答えた時、隣に座っていた宣仁叔父が口を開いた。
「私も演奏するぞ。私はバードのミサだがな。」
「えっ…叔父様も演奏を?すると…アウグスト伯父様も?」
「無論。兄はビーバーを演奏するようだが。もう一人の演奏者も決まっているしな。」
 そう宣仁叔父から聞き、俺は首を傾げながら叔父へと問った。
「なぜそんなことに?」
「皆には十一月に既に話してあったのだ。こうなることは何年も前から予想していたからな。ただ…その予想より早く動き始めたのだ。」
 叔父の言葉に、俺は頭を傾げた。これだけ大きく動いていたのなら、なぜ俺には告げてなかったのか?聖アンデレ教会からの依頼を受けた時でさえ一言もなかったのだから、不思議に思う仕方無いだろう。
「お前にも伝えるべきか悩んだのだが、お前にはこれとは別にやってほしいことがあってな。」
「別に…?」
 叔父は父に視線を向けると、父は静かに首を縦に振った。それを受けて後、叔父は俺へと視線を向け、徐に口を開いた。
「京之
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