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青い春を生きる君たちへ
第15話 破綻
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言われた通り、小倉はスマホのスピーカー機能をオンにした。田中の声が、小倉のスマホを通じて大きく響き渡る。

《拓州会の皆さん、こんばんは!》
「……!」


拓州会という名前がどこにもないはずのビルの前で、組織の名前が呼ばれた事に、入口番のチンピラが怪訝そうに、そして更に威圧感を増して出てくる。田中はいつも通り飄々と話し続けるが、その迫力を実際に目の当たりにしなければならない小倉はさすがに怯んだ。自分のスマホを介した会話は、どうやら田中の思惑通りトントン拍子に進んでいるらしい。小倉は、よく喋る自分のスマホを持ったまま、ビルの中に通された。



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薄汚い外見の割に、内装はやや豪奢なくらいに整えられているのは、さすがはそれなりの規模のヤクザの本部事務所だった。応接間のように見える一室に小倉は通される。窓は、あまり光を通さないような色付きのガラスで覆われ、固く閉ざされていた。外からは、中の様子を伺うことはできまい。普通のオフィスに見えて、所々、怪しさを伺わせるような所はある。例えば、壁にかけてある白黒の写真。組織の主の背中だろうか、しかしただの背中が写真として飾られている訳がなく、その背中をキャンバスとしてド派手な龍の絵が描かれているのだ。刺青の写真である。


「……で、お前の要求てのは何だ?」


小倉をソファに座らせ、スマホをローテーブルの上に置かせた、ボス然とした男が向かいのソファに座って言った。その男以外にも、手狭な応接間には構成員が何人も。ドアの前に一人、ボスの傍に一人、そして小倉の背後に一人。囲まれたな……そう感じて、冷や汗を垂らしながら、小倉は田中の言葉を待った。


《そうですね〜。とりあえず俺、お国の方に捕まっちゃったらまず命ないんで、亡命したいっすね〜。》


こいつ、今俺が置かれてる状況分かってんのか。いつも通りの腑抜けた声出しやがって……小倉は苛立った。何故田中は直接、拓州会に電話をかけなかったというと、それでは信用がないからだ。信用を得るために、小倉は田中に差し出されている。人質として……
しかし、田中がちゃんとやる事を、信じるしかない。それが奴の、愛の実験なのだから……


「そこの所は心配するな。俺たちは、国に雇われてお前を追ってる訳じゃない。俺たちの依頼人は、敵偵処のエージェントだ。お前を見込んでいるらしいぞ。亡命の手はずもキチンと整えているはずだ……」
《ほうほう》


よかった。話は丸く収まりそうである。そもそも最初から、両者の思惑は一致していたのだ。国から追われて逃げ延びたい田中と、海外の諜報員と結託して国に先んじて田中を確保したい拓州会。どちらも、国に反目して生きる爪弾き
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