暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアート・オンライン ≪黒死病の叙事詩≫
≪アインクラッド篇≫
第一層 偏屈な強さ
≪イルファング・ザ・コボルドロード≫ その参
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瞬の間のあと、俺の消えゆく怒声と供に、アスナは手首を捻って軌道を振り上げられたカタナへと向けた。カタナまでは届かないと思われたその流星は、次の瞬間に真っ赤に輝くカタナと衝突した。

 ギャンッ、という高い金属音は、振り下ろされたカタナの軌道を逸らしたことを示した。勢いよく抜き放たれたカタナはアスナの横を通り抜き、地面を叩きつけて浅い溝を生む。自分の判断が生んだ千載一遇の好機(チャンス)に俺の脳はGOシナグルを爆発させた。

「ウゥラアアアァァァッ!」

 涸れるような咆哮のあと、俺ははち切れんばかりに脚を前に出し、全力で一歩前へ跳ぶ。全開の俊敏と筋力任せの後先考えない強引さにより、俺の出しうる最速の一歩。歩調を合わせるための左足の二歩目が続き、三歩目で地面に溝を作る元凶のカタナ、その(みね)を右足で全体重を乗せ踏み抜く。

 俺の踏み抜きとコボルト王が武器を振り上げるタイミングが重なり、数フレーム間の筋力の対抗が起こる。体重を乗せた俺の全力での一撃は、イルファングの片手での引き戻しに打ち勝ち、カタナはずぶりとさらに深く溝を作らせた。

 しかし、無理な疾走にシステムは妥当な平等性を与え、俺の体を一瞬痙攣、そして硬直させた。俺の無様な姿を見たイルファングが、にやりと動物的で獰猛な笑みを浮かべ、左手をカタナに添え、振り上げようとする。イヤだ、ここまで繋げたんだ、頼む、お願いだ、システム様、俺にチャンスを――。

「ぬ……おおッ!!」

 太い雄叫びが(とどろ)き、俺の横から巨大で重い両手斧が緑色の光芒を引きながらイルファングの添えられた左腕を叩き上げた。ザクッという耳に残る小気味いい音がボス部屋の音を刹那だけ満たす。上方に絞られた軌道は敵の左手を吊り上げ、イルファングを大きく仰け反らせた。

 声の主は褐色の肌を持ち大斧を構えた巨漢、御意見番エギルだった。その隣にはH隊のギアもいる。二人に率いられるようにエギルのB隊を中心に他のプレイヤーも戦線に駆けこむ。

「僕達も闘う!」
「……サンキューエギル、ギア!」

 短い感謝を述べ、硬直の解けた俺は前に出た。依然、右腕のカタナは俺に踏みつけられたままでイルファングの左腕は伸び切ったままだ。チャンスは今しかない。

 距離にしておおよそ一メートルを切り、ついに俺の間合いに入った。あと二歩、二歩進めば完全に≪密着≫できる。過去の栄華を想像させる玉座の中、イルファングが口元をきつく締め、地面に刺さった武器から手を離しスゥーっと半歩下がる。それと同時に俺はカタナ踏みしめた右足で跳躍し一歩近づく。イルファングは、跳んだ俺に合わせ大きく右腕を振りかぶった。しかし着地地点にイルファングの右ストレートが風を切る音と供に襲う。だが。

「ハッ!! そいつぁ苦し紛れだ!」

 
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