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魔法少女リリカルなのは ~優しき仮面をつけし破壊者~

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オリジナルストーリー 目覚める破壊者
StrikerSプロローグ エースとストライカー、それぞれの第一歩
  71話:The beginning of StrikerS side Lightning

 
前書き
 
今回はライトニングの二人です。
本音を言うと―――キャロパートがかなり難産でした。
  

 




あの頃の僕は、本当にバカだったとしか言いようがない。


僕は普通とは違って、『プロジェクトF』と呼ばれるクローン技術で生まれた子供だ。

このことを知ったのは、僕が研究施設に連れてかれる直前だった。
その時僕を助けようとした両親も、その事実を突きつけられた瞬間静かになった。

僕はそれを見て、その事実は本当なんだとわかった。
そしてそれと同時に、僕は捨てられたんだということもわかった。




それからは、何を信じればいいのかわからなかった。

研究施設で研究材料として扱われ、今思えば軟禁状態だった。
両手両足を縛るのは勿論、上半身はさらに別の布で巻きつけられ、口も塞がれた。
そんな状態でそんなことをされていって、僕の心や体はボロボロになっていった。

そんな中僕は考え続けた。
僕を捨てた両親のこと。二人はなんで、僕を助けてくれなかったんだろう。
この研究所の研究員のこと。僕を連れて行く時の、あの表情。


もしかして……僕のことなんか、どうでもいいんじゃないか?


もし両親が僕のことを大切に思ってくれたなら、僕をあんな風に見捨てたりしない筈だ。
研究員の人達だって、僕のことを人間としてじゃなく、研究材料としか見ていない。そう言った表情をしていた。

そう思ったら、もう何も信じられなくなっていた。
誰も僕のことを大切に思ってくれない、僕の不幸なんてわからない。ならいっそ、誰も信じなければいい。そう思ったんだ。







そんな時、僕を研究施設から助け出してくれたのが―――フェイトさんだった。

フェイトさんに助け出された僕は、まずミッドの医療センターに移された。研究などで疲れきっていた体は、みるみるうちに回復した。

でも傷つけられた心は、そう簡単に回復しない。
人を信じられなくなっていた僕は、周りいた人達を手当たり次第に傷つけた。

僕自身が持つ魔力変換気質・電気は、人払いにはうってつけだった。
少しでも触れば、チクリと痛みが走る。触るためにはゴム手袋をしなかゃいけない始末だ。

でも僕はそんなことも気にせず、触ってきた手を振りほどいて、とにかく周りの人達を傷つけた。
こんなことを続ければ、ここにいられなくなる。そんなこと考えればすぐにわかることなんだけど、僕の心はそれを考えられない状態だった。

そしてもう医療センターにいられなくなりそうだってなった時、僕は再びフェイトさんに出会った。
正確に言えば僕の現状を知らされたフェイトさんが、僕に会いに来たんだ。

フェイトさんは敵意むき出しの僕に、優しい言葉をかけてくれた。
でも僕は、傷つけることしかしなかった。
どうせこの人も、僕の不幸をわかってはくれない。僕のことなんてどうでもいいんだって、決めつけて……

それでもフェイトさんは僕の電気を受けても、僕の手を優しく包んでくれて、抱きしめてくれて……涙を拭ってくれた。
傷つけられた僕の心を、温かく包み込んでくれた。

そのとき僕は、どうでもいい存在じゃないって……初めて実感できた。






「このドアホ、何危ねぇことしてやがる」


そんな時、フェイトさんの頭が叩かれた。
なんかえらくいい音が、医療センターに響いた。


「い、痛いよ……」
「当然だ。痛いようにやったんだからな」


フェイトさんの後ろに立っていた男の人が、腕を組む。

これが僕と〝あの人〟との、最初の出会いだった。


「でも、どうしてここに…?」
「俺もここに用事があってな。んで来たら来たで…」


はぁ、と大きなため息をついて肩を落とした。


「たく……お前はなんでこうも危ないことをすっかなぁ」
「うっ……でもこれは必要なことで…!」
「電気浴びて手のひらをボロボロにしてまでやることか?」


そう言って男の人がフェイトさんの手をひっくり返すと、手の皮膚が焼け焦げていた。
その際フェイトさんは「いたっ」と言って表情を歪めた。

これの原因が僕であることなど、すぐにわかった。


「あ、あの…!」
「あっ、大丈夫だから、心配しないで!」
「何が大丈夫だよ。服まで焦がして……後で医者に診てもらえよ」


男の人は呆れながらフェイトさんの手を離した。
フェイトさんは何やらムスッとした表情になっていたけど、怒っているのだろうか。

さてと、と言って男の人は僕の前に、僕の目線に合うように屈んだ。


「こいつがお前の言ってたガキか?」
「う、うん…そうだけど…」


フェイトさんの言葉を聞いて、ふ~んと言いながら僕を色んな角度から見始める。
もしかして……観察してる?


「……おい小僧」
「は、はい…!」



「お前は―――誰だ?」



その言葉に、へ?返してしまった。
するとフェイトさんが慌てた様子で男の人を呼びかけた。


「えっと、その子はね―――」
「悪いけど、お前に聞いてる訳じゃないんだよ。俺はこいつに聞いているんだ」


後ろにいたフェイトさんを制して、じっと僕の目を見つめてくる。
その目はまるで、僕のことを試すかのような目だった。


「ちょ、ちょっと…!」
「ん?あぁ悪い、自己紹介は自分から言うべきか」
「そうじゃなくて!」


一度立ち上がって、親指を立てて男の人は自分を指差した。


「俺は門寺 士。お前を助けたフェイトの友人だ」


それを聞いたフェイトさんが、顔を背けて何かブツブツ呟いていた。なんか心なしか顔が赤い気が……


「ぼ…僕は……」


でも僕は―――ちゃんとした言葉を、返すことができなかった。
僕が何者なのか。以前の―――捨てられる前の僕なら、簡単に答えられたかもしれない。


じゃあ、今の僕は―――いったい誰なんだろう?


「答えられないか?」


不意に聞こえた声で、視線が上がる。
目の前にいる男の人は、特に怒った様子もなく「そうだよな」と言った。


「わからない物を言葉にするのは、誰でも難しい。でもな、それでもいいんだ」


ポンッと僕の肩に置かれたのは、男の人の手。
僕やフェイトさんよりも一回り程大きくて、フェイトさんと同じぐらい温かかった。


「今わからないなら、これから探していけばいい。他の誰でもない、過去のお前でもない……これから先のお前を、さ」


ニカッと笑いながら言った。そして立ち上がりながら「それから」と続ける。


「どんなことがあっても、お前がお前であるのは…変わらないってことも、忘れるなよ?」


そう言って振り返る男の人。そしてフェイトさんと少し話してから、その場を去った。

その時の〝あの人〟の背中は……僕には、何故か眩しく見えた。







その日以来、僕は〝あの人〟と度々会うことがあった。

その度にあの言葉を投げかけられる、ということはなかったけど、いつも考えていた。


僕は何者なのか、と。


〝あの人〟と会う最初のうちは、ちゃんとはっきり言うことができなかった。
僕は作られた存在で、どうでもいい存在だと思ってた。

でも……フェイトさんと出会って、〝あの人〟と出会って、それは違うんだってわかった。

僕を『僕』として見てくれて、『僕』を呼んでくれる人がいる。
昔の僕―――『エリオ・モンディアル』じゃなく、今の『僕』は今ここにいる。それはフェイトさんや“あの人”、リンディさんにエイミィさん…色んな人達と出会ったおかげだ。

だから次に〝あの人〟と出会ったら、今度こそ言うつもりだ。
最近会えてないけど…今度は自信を持って、はっきり言えると思う。



僕は―――『エリオ・モンディアル』だって。
















 



はぁ、はぁ、と息荒く足を動かす。林の中を縫って、走り抜けていく。
心臓がバクバクと鼓動して、私の脳に警告音として響き渡る。それでも、足を止める訳にはいかない。

ここで追いつかれたら…もうどうにもならない気がしたからだ。


「―――うわっ!」


だけど林の中には、地面から出てきている木の根という物が付き物で、私はそれにつまずいて倒れてしまった。
すぐに飛んでいた私の竜―――フリードが私の傍までやってきて、呼びかけてくれた。


「だ、大丈夫だから―――きゃっ!」


私は立ち上がろうとすると、今度は後ろで爆発が起きた。それの所為でできた爆風に煽られて、私は大きく吹き飛んだ。
今のは自然の爆発じゃない。何もない林で爆発するなんて、普通じゃあり得ない。

だからこれは〝あの人〟の所為だって事は、すぐにわかった。


「いくら逃げても無駄だって、言ってるのにね~?」


後ろから声が聞こえて、勢いよく振り返る。そこにいたのは、赤い水晶のような頭部を持ち、同じような水晶を先端に付ける杖を持つ―――『異形』の存在。
それが……宙に浮いて、木々の合間をすり抜けてやってくるのだ。どうも魔法を使っている様子もない。


「今回の任務が『ガキを連れてくる事』とはな…」

「うっ…うぅ…!」


ふわりと浮いて私の近くまでやってくる『異形』。それを見た私は正面を向いたまま後ずさりをする。
だけどすぐに何かが背中に当たる。勿論ここは林の中。振り返らずとも、それが木である事がわかるのは簡単だ。


「さて、そろそろ鬼ごっこも終わりにしようか…」


そう言って『異形』が杖を振るうと、私の体がふわりと浮いた。抵抗しても手足は空を切るだけ、状況は何も変わらない。


「キュクル~!」
「むっ…?」


フリードも私を助けようと『異形』に突っ込むけど、それもあまり意味がないようで、逆にフリードも私と同じように空中の自由を奪われた。


「竜召喚っていうぐらいだから、竜も必要か?任務内容にはなかったが…」


まぁいいか、と呟いて『異形』は踵を返した。いや、宙に浮いてるから踵を返す、とはちょっと違うかもしれないけど……

そんな余計な事を考えるより、この状況をなんとかしなきゃ。
そう思って抵抗しても、さっきと状況は変わらない。私の抵抗は、ただの無駄なあがきだ。

い、嫌だ!こんなところで…私は…!
それでも私は抵抗を続けた。無駄と分かっていても、やっぱりしてしまう。

でも―――この抵抗は、本当には無駄じゃなかった。
視界の端から、何か勢いよく飛んでくる物が見えた。


「だぁらぁぁぁ!!」
「ぬぉっ!?」


その勢いよく飛んできた物が、『異形』に衝突した。その勢いに『異形』は耐える事なく、大きく吹き飛んだ。

その時、ふと体が重くなるのを感じた瞬間、私は落下し始めていた。おそらく、あの『異形』が遠ざかったからじゃないかな?
でも重力に逆らえないという事は、同時に地面に落下するという事。私はその衝撃に備える為に、体をこわばらせて目を瞑った。

だけど次に来た衝撃は、地面に当たった時のそれじゃなかった。


「大丈夫か?」


その言葉に瞑っていた目を開けると、そこには白い尖がり頭の人がいた。多分、私が落ちる前に抱きかかえてくれたみたいだ。
吹き飛んだ『異形』と同じぐらい変な格好に見えたけど、何故か安心できた。なんとなく……目が優しい感じがしたから、だと思う。


「ぐっ…き、貴様ディケイドか!?いったい何故ここに…!?」
「これ以上は好き勝手やらせる訳にはいかないからな」


そう言って私を抱えたまま、近くの木に『異形』を見据えたまま下がっていく。
そして近づいた木に私をゆっくりと降ろすと、この一瞬だけこちらに顔を向けて、ポンッと頭に手を置いた。その手は私なんかよりもずっと大きくて、温かかった。


「よく頑張ったな…後は、任せろ」


その言葉を聞いた瞬間、私の意識が遠のいていくのを感じた。どうやらあの『異形』に追い掛け回されたのが、結構体にきていたらしい。もう体の限界だった。

意識を失う直前に見えた白い人の背中は―――とても大きくて、凄く安心できた。






その後、私は管理局に保護されて、あの『異形』と同じような人達から守るのと同時に、局員として部隊に所属することになった。

だけど私は、どの部隊からも持て余されてしまっていた。
理由は至極簡単な事―――竜召喚士であるのに、竜を…フリードを制御できないから。

戦いとなると、私はどうしてもあの時の『異形』を頭の中に浮かび上がらせてしまう。その姿が、私に怖いという思いを植えつける。
そんな私の気持ちを感じてか、フリードもちょっとした刺激で暴走してしまう。それも敵味方問わずに攻撃してしまうんだ。

そしてその経験に―――制御失敗の経験に、さらに私が恐れてしまう所為で、その頻度は増すばかり。
だから私はどんな部隊からも、受け入れられることはなかった。

でも、唯一フェイトさんだけは違った。
部隊で持て余されていた私を引き取ってくれて、連れ出してくれて。色々な場所へ連れてってもらって、色々な物を見て。

そんな日々の内、私は〝あの人〟と出会った。


「悪い悪い、遅れたかな?」


そう言ってやってきたのは、大きな男の人とそれと対照的に小さい体のアルフだった。
でも今日はフェイトさんが来る筈だけど……


「あぁ、フェイトは今日急に仕事が入っちゃってね。来られないから―――」
「フェイトに代わりを頼まれたんだけど…やっぱりこの絵はマズいかね…」


たはは、と乾いた笑いをする男の人。アルフはその人の足に蹴りを入れながら、何言ってんだよと言った。
絵がマズい…とはどういう事だろう?

その後は、アルフと男の人と私の三人で、水族館を回った。色んな魚を見たり、大きめの生き物に触れたりもした。
昔の私では……里から追い出されて、一人で旅を続けていた頃の私では、考えられないぐらい楽しい時間だった。

でも、そう言った時間は瞬く間に過ぎていくというのは、以前にも感じたことがある。
そして今日も、それを味わった。

もっと長く居たいのに時間はどんどん過ぎていって、もう帰らなきゃいけない時間が来てしまう。それが悲しくて、今日も少し泣いてしまった。
アルフはまた来ればいいって言ってくれて、男の人も笑っていた。

でも私には―――居場所がない。
いつも各地を転々としていた私には、また水族館に来るなんてことは…まずない。きっとまた、私はここを離れることになる。

そう思ってそれを口にすると、二人は目を丸くして顔を見合わせた。
そして、私と同じ目線に合わせてから、頭に手を置いた。その手は、かつて私に置かれたあの大きな手と、同じ感じがした。


「お前なぁ…居場所なんていつだって、何処でだって作れるぞ?」
「で、でも私は…!」
「お前の持つ力の事は、フェイトから聞いて知ってるよ」


え?と驚くと、男の人は笑った。


「確かに、力っていうのは時として人を傷つけてしまう事もある。俺もそういう時があった」


私の頭の中には、フリードが暴走してしまって味方ごと攻撃してしまう光景だった。
でも、とさらに続けて男の人は言う。


「その力で、誰かを守る事もできる。それに人だけじゃなく、居場所だって守れる」
「っ…!」
「ようは力っていうのは、それを持つ人によってどうにでもなってしまうっていうことだ」


お前はどうだ?と男の人は聞いてくる。私は以前の事があった所為で、返事をすることができなかった。


「まぁ今は答えられないだろうな。でも、いつかその答えをお前は見つけなくちゃいけない。力を持つ者として、な」
「力を…持つ者…」
「そう。それにな、誰かを傷つけたくらいでなくなる居場所なんか、本当の意味での『居場所』じゃないよ」


そう言って男の人は立ち上がった。そして背中を向けて、背中越しに語り掛けてくる。


「色んな人と出会って、色んな話をして。仲良くなって友人になったり、時には喧嘩をして、でも仲直りもしたり。そんな色んな事と向き合っていると……『居場所』なんてすぐにできるもんだ」
「む、難しいですね…」
「そうか?まぁそう思うんだったら、そこ止まりだな。できると思わなきゃ、できるものもできないさ」


はっはっは、なんて笑い声を上げながら、水族館の出口に向かっていく。私はその後を少し早歩きで追った。


「自分で求めなきゃ、『居場所』はできない。お前さんは次にどこへ行って、どうしたい?」


その日あの男の人に聞かれた最後の疑問は、フェイトさんが言った言葉とどこか似ていた。







私の『居場所』。
今はまだ、それが私に本当にあるかどうかわからない。

でも私は、フェイトさんやエイミィさん、リンディさんにアルフ、フェイトさんのお友達のなのはさんやはやてさんと出会って……〝あの人〟と出会った。
その出会いは私に色々な物をくれて、大切なものを気づかされた。

ここにいちゃいけない、なんてことは絶対にない。
人は望む場所に、そこに居たいと思うところに居ていいんだ。


そしてそこが、自分の本当の意味での『居場所』になるんだ。


だから、私は自分の『居場所』を作りたい。
あ、いやいや!私の居場所はあるとは思いますけど、それとはちょっと違うんですよ!

確かに、フェイトさん達と出会って自分の居場所ができたとは思います。
でも、それは出会った人達が私に出会ってくれた―――つまり、私は出会ってもらったのだ。

だから今度は私から、色んな人と出会って、色んな思いを感じて……その人達との『居場所』を作りたい。


そしていつか、私の力でその人達を―――大切な人達を、守りたい。そう思った。



  
 

 
後書き
 
次回はオリキャラ編。まぁ出番は後半ですが……
  
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