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東方攻勢録

作者:ユーミー
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第二話

 俊司達が永遠亭で作戦を考えていた頃、幻想郷のはるか上空にある天界では、軍服を着た兵士達があわただしく走り回っていた。
 地霊殿の開発施設の陥落、紅魔館の陥落、八雲紫捕獲作戦の失敗。三回も作戦を失敗していた革命軍は非常に追い込まれていた。残された天界の本拠地は基地全体は広く建設し、周囲には壁も建てて中央に大きな塔をたてている。監視カメラを設置するなどして防御態勢を整えているが、幻想郷の住人を相手にしてるのを考えればほとんど無意味のようなものだ。早急に手をうたないと、ここも時間の問題だと考えるのが妥当だろう。
「……」
 塔の最上階に作られた大きな広間で、革命軍の総司令官である上条は空を眺めていた。
 幻想郷の存在を知ってから今日この日まで戦ってきたわけだが、彼自身も限界を感じ始めていた。世界を変えるために世界征服を企む。そのために自身の妻を殺し、兵士として戦わせていた娘も殺した。大切なものを失ってまで、自分の追い求めていた世界を作ろうとしていた。
 たとえそれが間違っていると気づいていたとしても。
「司令官……作戦会議の準備が整いました」
「……そうか」
 上条は静かに答えると、何も言わずに会議室に向かうのだった。

 二日後、俊司達は出発の準備を終えて永遠亭の中庭に集まっていた。
「では永琳さん、よろしくお願いします」
「ええ。そっちこそ」
 幻想郷の住人達を守るために、永遠亭には永琳とてゐが残ることになった。革命軍が奇襲をしかけてもいいように、永琳にはにとり自作の携帯を持たせている。緊急事態になれば連絡が入るだろう。
「鈴仙とにとりは?」
「予定通り先に向かったわ。私達も向かいましょう」
「そうだな……」
 一応鈴仙達にも緊急連絡用の携帯を渡しているが、危険になって連絡をもらってもすぐに向かえるかどうかはわからない。俊司の心の中には不安と心配が残っていた。
「どうしましたか?」
「いや、なんでもないよ妖夢。行こう」
 俊司は大きく深呼吸をしたあと、紫が作り出したスキマの中に入っていった。
「大丈夫かな……」
「今は待ちましょう……私達はここを守るのが仕事なんだから」
 永琳はスキマが消え去った後もその場所をじっと見続ける。一見冷静さを保っているように見るが、心配そうな目つきだけは隠せていなかった。

 俊司達が永遠亭を出たころ、天界の基地周辺では鈴仙とにとりも所定の位置についていた。
「……思ったよりもでかいですね」
 天界から少し離れて見ても、革命軍の基地の存在感は大きかった。少し大きめな町のような造りもそうだが、中央に設置されている塔が一番存在感を発している。
「よくここまで作り上げたもんだなぁ……さて、問題は侵入方法だね」
 ゲートの周辺には五人の兵士が警備をしている。鈴仙の能力を使えば侵入は容易いかもしれないが、これだけ大きな基地だ。内部にも複数の敵がいて気付かれる可能性も高い。となると鈴仙一人では力不足になるだろう。
 もちろん俊司もこうなることは分かっていたはずだ。だからこそ、あの時文にある事を依頼したのかもしれない。
「いたよお姉ちゃん」
「えっ!?」
 急に声が聞こえたかと思うと、鈴仙の肩にそっと手が乗せられた。警戒心を最大にしていた鈴仙は、敵が来たと思いすぐさま手を払いのけて戦闘態勢を取る。
 しかしそこにいたのは敵ではなく、見覚えのある二人のしまいだった。
「あっ……あなた達は!」
「すいません。少し驚かせてしまったようですね」
「古明地さとりに……古明地こいし……」
 第三の目を持つ少女と閉じたままの第三の目を持つ少女。さとりとこいしは静かに笑みを返していた。
「どうして……もしやあなた達が俊司さんの行っていた助っ人の方ですか?」
「そうです。おととい急に天狗の方が現れたかと思いきや、最終決戦を始めるだなんて言われたものですから……大急ぎで準備してきたわけですよ。それで、私達二人はあなた方をサポートするように言われてます」
「なるほど……俊司も先に言ってくれればよかったのに」
「それもそうだねー。さて! そろそろ始めよっか」
「でもどうやって……」
 鈴仙が尋ねてみると、こいしはなぜか笑みを返してくれた。
 その頃ゲートを守っていた警備兵の一人は、よっぽど暇なのか欠伸をしながら頭をかいていた。
「……暇だな」
 溜息を漏らしてから静かに呟く。すると
「そうだな。警備体制がきつくなってから二日は経っているが……誰も来ないしな」
 上層部からの命令により、本拠地の警備は厳重になっていた。もちろん最終決戦に備えての話だ。しかしこの二日間何事も起きておらず、最初は気合いを入れていた警備兵達も徐々に怠け始めていた。
「ところであいつらが攻めてきたところで、俺達が倒せると思うか?」
「いやー無理だろ!」
 冗談なのかほんとにそう思っているのかは分からないが、変なことを言いながら笑いあう二人。だがすでに最終決戦が始まっていることを、まだ彼らは気付いていない。
「おい!」
 笑い話をしていると、突然背後からどなり声が聞こえてきた。
「はっはい!」
「ゲートが開いてるだろうが! 何をしている!」
「……へっ?」
 あわててゲートを確認すると、鉄製の重い扉はきれいに開いていた。手元を見てみると、開閉用のボタンに手が触れており、無意識にボタンを押してしまったのだろう。
 警備兵はあわててボタンを押し直し、ゲートを元通りに戻す。
「全く……もっと気を引き締めろ!」
 ゲート付近ではしばらく怒鳴り声が響くのであった。
「説教もいいけど……あいつも私達に気付けていないんだから言えたものじゃないよね」
 少し離れた場所では、いつの間にかゲートをくぐりぬけていた鈴仙達が、説教をしている上官をひきつった顔で見ていた。
「まあ気づける訳がないとは思いますけどね」
「こいしさんが無意識でゲートを開けさせて、私が他の兵士にばれないように能力を使う……俊司さんはこれを計算していたんですね」
「さて、先に進みましょうか」
 四人は周囲を軽く警戒しながらもゆっくりと進んでいく。二人の能力があれば、この作戦も簡単に終わらせられるだろう。そう思っていた。
「ふーん……どうやら四人一組で入りこんだのは策略なのかな?」
 そんな四人を物陰から一人の男が見ていた。
「古明地姉妹はあの基地にいたときから何度か見ているから能力は分かる。ウサ耳をつけているのは波長を操れる兎で……もう一人はチップ開発にも携わった河童か。なるほど、内部工作でもして侵入しようってたくらみか」
 男は何か考え事をしながら歩き始める。
「司令官からは戦闘してもばれない場所に連れて行けと言っていたな。だったら防音設備が整っている研究施設に向かわせるか……。はあ、あの鬼火の時といい、なんで俺はこんな面倒な事に巻き込まれるんだ」
 男はブツブツと独り言を言いながら四人の後をつけていく。誰も見つけることが出来ない四人をしっかりと捕えながら……。
「さて……君達はこの拒絶を避けることができるかな」
 男はそう呟いて一瞬目を光らせるのだった。
 
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