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東方攻勢録

作者:ユーミー
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第三話

 尾行をされているとは微塵も思っていない四人は、当初の予定通り工作が出来そうな建物、特に武器庫など爆発物が保管されていそうな建物を探しながら、基地の中を早歩きで進んでいた。
「うーん……どの建物も同じような作りになってて、何の建物か分かりませんね……」
 周囲の建物はどれも小さな窓がいくつもついてあり、見た目からして捕虜を収容する施設のようなものばかりだ。大きな扉がついていたり、特別大きく造られている様子もない。それどころか建物は兵士と捕虜の人間が何度も行き来をしている。
 そこから十分ほど歩いても、見えてくる建物はさっきと同じようなものばかりだ。このままでは俊司達の突入が遅れてしまうだけでなく、見つかってしまう可能性も高くなってしまう。四人には次第に焦りの色が見え始めていた。
「どうしよっかお姉ちゃん」
「これ以上時間をかけてしまっては……とはいえど、目ぼしい建物は見当たらないし、何より近寄りがたいわね」
「さとりさんもですか?」
「えっ鈴仙もなのか!」
 どうやら四人とも建物の中に入るのに抵抗を感じているようだった。それもただならぬ雰囲気を感じてとかの理由はなく、ただなんとなく入りたくないと思っているからだ。
「どうしてでしょうか……」
「……とりあえず進もう」
 四人は不振に思いながらも、目的を果たすことを考えて進んでいく。
 それからさらに十分ほど経ったころ、四人はようやく目ぼしい建物を見つけていた。
「……あの建物はどうでしょうか」
 鈴仙が指をさしたところにあった建物は、周囲の建物と比べると少しばかり大きな造りになっており、それでいて白色で外壁を塗った建物だった。周りの建物はすべて少し黒に近く、それをさらに茶色い水で濁らせたような色をしているので、見つけた建物の存在感はすごく大きい。
「もう時間もないし、一度中に入ってみようよ!」
「そうね。行きましょう」
 四人はそのまま建物の中に入っていく。扉の横にかかれた『アンドロイド研究施設』という文字に気付かずに……。
 建物の内部は機械が多く並べられており、地下につながっているであろう階段が見えていた。一階二階ともに小さな部屋がいくつも造られており、その内部にはアンドロイドと、その残骸であろうスクラップになった鉄の塊が保管されている。
 二階の奥の部屋だけは少し大きな造りになっており、大きなモニターやキーボード・モニターが付いた機械がいくつも置かれていた。
「アンドロイドの研究でもしてたんだろうな……あとこの機械、霧の湖で使ってたのとおなじだね」
「チップの製造に使われていたんですか?」
「そんな感じ。正確に言えばチップの取り付けに使われる機械なんだけどね」
 にとりは機械のスイッチを入れると、キーボードを使って何かを調べ始めていた。
「……昨日か」
「昨日?」
「チップの取り付けが行われていた日だよ。ここに過去のログが残されてて……ちょうど昨日に取り付けが行われたって書かれてる」
 モニターには確かに昨日の日付ととりつけられたチップの種類が書かれていた。種類は牧野達が言っていたタイプCのチップ。だが誰にとりつけられたか等は書かれていなかった。
「もう一日早かったら……」
「悔やんでも仕方ないよ。今日で終わらせなくっちゃ……」
「そうだね。この部屋も何もなさそうだし、まだ見てないところ見にいこうよ」
「最後は……地下だけだね」
 四人はそのまま地下に向かった。
 地下室は一階二階とは違って大きな広場の様な造りになっており、特にめぼしいものはない。壁には一部だけ窓と扉がついており、それ以外には設置されたカメラが十個ほど見つかった。しかし工作に使えるような物は全くなく、四人は途方に暮れていた。
「うーんどうしよっか」
「どうもおかしいですね。ここもそうですが、この建物を見つけるまで、私達はすべての建物に入ることを拒んだ…‥‥妙だと思いませんか?」
「まあ、ただ入らなかったってわけでもないからねぇ」
「……誰かがこうなるように仕向けていたとしたら?」
「お姉ちゃんそれは――」
「その通りだ」
 突然誰かの声が大きな部屋の中を駆け巡った。四人は臨戦態勢を取り、すぐさま振り返る。
 そこに立っていたのは軍服を着た男だった。
「君達はこの建物以外の建物に入ることを拒絶させられていた。それが答えだ」
「尾行されてたようですね……」
「わっ私と鈴仙の能力があったのに!?」
「いや違う! 今も何度か能力使ってますが……拒まれて……!」
 鈴仙は何かを察したのか、目を見開いて能力を使うのをやめていた。
「能力……持ち……」
「正解。俺は拒絶を操ることができる。それでお前達の能力を拒絶し、他の建物を拒絶させた。ついでに警戒させないように、その部分もいじってな」
 この時初めてうかつな行動をしたことを四人は後悔した。
 侵入前に考えておけばある程度対策は取れていたはずだった。そもそもここは敵にとって最後の砦だ。想定外の能力持ち兵士が現れてもおかしくはない。唯一の救いは相手は一人だけだということだろうか。
「どうする?」
「……ところで、あなた一人だけかしら?」
「ああそうだ。もちろん君達に対する対策はすでにしてある」
「能力だけですよね。それだけなら――」
「そんなわけないだろ」
 男はそう言うと腰につけていたポーチから一本の注射を取り出し、そのまま躊躇することなく首元に突き刺した。
「何を……」
「さて、始めようか!」
 男はそいって地面を思いっきり蹴った。
「えっ……うっ!?」
 急に腹部に衝撃が走ったかと思うと、鈴仙の体は大きく吹き飛ばされて壁に衝突した。
「れっ鈴仙さん!?」
「注射一本でこの威力か……思った以上の効力だな」
「なっ……」
 鈴仙が立っていた場所には、さっきまで離れた場所に立っていた男の姿だった。どうやら彼が鈴仙を思いっきり吹き飛ばした犯人らしい。
「どういうこと……」
「注射で身体能力をあげた。これであんたらとも対等に戦うことができるってことだ!」
「きゃっ!?」
 今度はさとりの体が宙に浮き上がり、そのまま地面にたたきつけられる。もちろん男が動いた瞬間、だれも彼を捕えることができていなかった。
 誰も言葉を発することができず、ただ彼を見ることしかできない。現状は最悪だった。
「さあどうする? 俺の目的はあんたらを黙らせて捕獲すること。そして外で待っているであろう本隊に人質として提示すること」
「なっ!?」
「さあ……どうする?」
 男がそう言った瞬間、また彼の姿は見えなくなっていた。 
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