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愛の証

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第二章

「美味い菓子が来たのなら一緒に食う位のな」
「そうした気遣いが欲しいっていうのね」
「そうだ、それでか」
「ええ、今はね」
 家族に連絡をしているというのだ。
「そうしているわ」
「わかった、しかし相変わらず貴明君に首ったけだな」
「結婚する前からね」
「どうしたものか」
 父親としての複雑な感情も見せるのだった。
「家庭円満はいいことだが」
「それでもっていうのね」
「たまには父親に顔を見せろ」
 こう我儘を言うのだった。
「今日来るまで半年も来なかったしな」
「半年に一回位ならいいじゃない」
「毎週来るべきだ」
「毎週は無理よ、あの娘大阪にいてここは京都よ」
「すぐだろうが」
「無理よ、全くそんな我儘なことを言ってると」
 妻はやれやれといった顔で夫に言う、顔に皺はあるがそれでも細面で白く整った顔立ちである。長い黒髪もすらりとした身体も綺麗だ。
「あの娘に嫌われるわよ」
「大きなお世話だ、全く真希絵ときたら」
 我儘親父そのままで言い続ける。
「困った奴だ、昔はお父さんお父さんだったのにな」
「それはあの娘が小学生の頃でしょ」
 それも低学年の頃だ、今はもう言うまでもない。
「二十年は昔じゃない」
「昨日のことに思えるがな」
「今は貴明さんと貴博だけよ」
「家族か、本当に愛しているんだな」
「いいことじゃない、家庭円満で」
「喜ぶべきか」
 憮然としながら言う彼だった、だがここで。
 ふとだ、彼はこうも言ったのだった。
「待て、名案を思いついた」
「迷案を?」
「ああ、名案をだ」
「それはどういったものなの?」
「母さんは真希絵を呼んでくれ」
 その娘をというのだ。
「そうしてくれ」
「あの娘をなの」
「そうだ、いいな」
「一体どうしたの、急に」
「絵が描けそうだ」
 会心の笑顔になって言う遠山だった、その何処ぞの息子に養成ギプスをはめさせる馬鹿親父にそっくりの外見で。
「どうやらな」
「絵がなの」
「そうだ、いける」
 こう言うのだった。
「では読んでくれ」
「よくわからないけれど」
 それでもだとだ、妻はその夫に応えた。
「あなたの絵が描けるのならね」
「真希絵を読んでくれるな」
「そうさせてもらうわね」
 こうしてだった、妻がその娘を呼んできた。真希絵は和解頃の母を思わせる美人だ。すらりとした身体を清潔でシンプルな青いセーターとジーンズで包んでいる。
 その彼女がだ、遠山のところに案内されると不機嫌な顔で彼に言ってきた。
「何よ、お父さん」
「不機嫌そうだな」
「そんなの見てわかるでしょ」
 もう子供もいるのに反抗期の娘そのままの返事だった。
「そんなことは」
「そうか」
「そうじゃないわよ、折角これから貴明さんと博ちゃんの為にお土産買おうって思ってたのに」
「そうか、では母さん」
 ここで妻に言う彼だった、彼女に顔を向けて。
「席を外してくれ」
「?そうなの」
「そうだ、真希絵に二人だけで話がしたいからな」
「それじゃあね」
 妻は何かわからないがそれでも彼が言うのならだった。 
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