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リメイク版FF3・短編集

作者:風亜
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伝説の4人の勇者

 
前書き
イングズ視点のアムル編、4じいさん出現。 

 
「この街には4人の戦士が現れて、溢れる闇と光を打ち砕く────という伝説があるの」


「「「「いえーーい!!」」」」


「 ………なんだ、今の4人の老人達は?」

「い、いきなり現れてヒーローポーズ……??」

「すぐ立ち去ってったわね……、何がしたかったのかしらっ?」


 ────アムルの街の女性から話を聴いていた時の出来事だった。私を含め、アルクゥとレフィアもつい呆気に取られる。

「ふふ……あのおじいさん達、自分達が伝説の4人の勇者だと思っているのよ!」


「 ………あんまし関わりたくないな」

 ルーネスにしては珍しく、気難しい雰囲気を醸し出している。普段なら真っ先に面白がるはずが………この街で目覚めてからというもの、めっきり口数も減り表情も陰気だ。水の巫女の一件が応えているのは判るが────


「とにかく[浮遊草の靴]を貰いに下水道に行く為に、この街の長って人に会わないといけないみたいだね」

「そうね~、エンタープライズを鍵付きの鎖で動けなくしたゴールドルって人の館まで行くには、[浮遊草の靴]で底なし沼渡らなきゃいけないそうだものね………」

「さっさと行こうぜ、こんなトコで立ち止まってらんないよ」

 アルクゥとレフィアが行動の指針を述べ、ルーネスは不機嫌そうに先をゆく。

「もう……、あいつが辛気臭いと何か調子狂うわっ?」

「無理もないけど……いつものルーネスに戻るには、時間が掛かるかもしれないね」

 レフィアとアルクゥは、心配そうにルーネスの後ろ姿を見つめている。

────あいつ自身が乗り越えなければならない問題だ、我々がどうこうしてやれる話じゃない。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ワシはこの街の長ジルじゃ、何の用じゃ?」

「浮遊草の靴を貰いに、下水道に入りたいんですけど……」

「何、下水道じゃと? あそこは危ないぞ! 怪物が出るので入れないようにしてあるんじゃ」

「困ったわね……4つ目のクリスタルを探すには、浮遊草の靴が必要なのに」

「何と!? お主たち……伝説の4戦士か?」


(なにっ、4戦士?!)

(それはわしらの事ではないか!)

(あいつらもそうだと云っとるぞ!)

(下水道に入るらしい……!)

((((よーし、先回りじゃ!!))))


 ────ん? 今、数人の気配がしたが……気のせいか。

我々は街の長に下水道への入口を開けて貰い、探索に入る。

………こんな所に住んでいるという、浮遊草の靴を持っているらしいデリラ老婆の気が知れないな。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「「「「ひえぇ~、おたおた、お助けぇ~~!!?」」」」

 それなりに奥へ進んだ所で、例の4人の老人達が四体のギガントードに襲われているのに遭遇した。……一体どうやって先回りしたんだ。

「ね、ねぇ、街であたし達の前に現れたあのおじいさん達じゃない……!?」

「大変だよ、助けないと……!」

 レフィアとアルクゥは助けに入ろうとするが、ルーネスは冷たいひと言を云い放つ。

「放っとけよ、"伝説の勇者達"なんだろ」

「あの老人達は何か思い違いをしているだけだ、とにかく助けるぞ!」

 ギガントードは雷属性が弱点だというのはここまでの道すがら学者のアルクゥのお陰で既に知れていた為、黒魔のレフィアと赤魔の私で<サンダラ>を、アルクゥはアイテムの[ゼウスの怒り]を使い3匹を一気に倒してゆく。

残った1匹は戦士のルーネスが踏み込んで倒しに掛かるが、斬撃のミスが多く倒しきれないばかりかギガントードから反撃を受け、毒状態に陥る。

「 ぐ……っ 」

「ルーネス、下がってなさい! 止めはあたしが……! <サンダラ>!」

 レフィアが再び黒魔法を放ち、その場のギガントードは1匹残らず倒す。


「 ────大丈夫、ルーネス? ほら、この毒消し使って。ハイポーションも使いなよ」

「 あぁ、うん…… 」

 学者のアルクゥが、ルーネスに何かと世話を焼く。

「いや~、すまんすまん! 危ない所を助けてくれてありがとうよ!」

「伝説の4人の勇者とは、てっきりわしらの事だと思ったんじゃが……!」

「やっぱり違うのかのう? 残念残念……、ハっハっハ!」

「とはいえわしらもまだまだ修行が足りんな!!」


「4人のご老人達……ここは危険だ、今すぐ街へ戻るべきだ」

「うむぅ……、やはり伝説の4人はあんたらなのかのう?」

「まぁそれなら仕方ない、素直に戻るとしようかの!」

 少し残念そうに、4人の老人達は街に引き返してゆく。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「……何者だい、このデリラ様に何の用だい?」

 下水道の最奥に、その老婆はいた。ルーネスは早く事を進めたいのか、自分から前へ出て話を切り出す。

「おれ達一応光の戦士なんで、浮遊草の靴ってのくれないか、ばぁちゃん」

「ヒャヒャヒャ! お前たちみたいな若造が伝説の4人の勇者だとは……、信じられないがまぁいいさ。────ほれ、これが浮遊草の靴だ、しっかりお取り!」

 老婆が我々から距離を置いたまま"何か"をルーネスに放って寄越した。────ん、何だ……!?

「危ない、避けるのじゃ!!」


「 は……?? 」


 ルーネスは両手を前に出したまま、聴き覚えのある呼び掛けに頭だけをそちらへ向けた。

馬鹿か……! 自分の方に向かって来る物から目を逸らすなッ

────私は咄嗟に後ろから襟首を掴み、そのままルーネスを後方へ引き倒す。

次の瞬間、目の前で小爆発が起こり、私は噎せ返って気付いた時には目をやられたらしく、何も見えなくなっていた。

「「「「お前さん、大丈夫か?!」」」」

 ん……? 今の声はあの老人達……!? 街に戻っていなかったのか。

「イングズ、もしかして暗闇状態? これ、目薬使いなよ!」

 アルクゥがすぐ回復アイテムを渡してくれるが………治らない。自分で白魔法の<ブライナ>を唱えてみるも………駄目だ、効果が無い??

「アタシが調合して作った不審者撃退用の攻撃アイテムさね、そう簡単に状態異常は治らんよ!」

 嘲笑するかのような老婆の声が、下水道に木霊する。

「デリラばぁさんは相変わらずじゃのう?……仕方ない! わしらが歴戦の中で手に入れた[エリクサー]を使うといいぞ!!」

 む、これは……! 身体中に活力がみなぎる。目薬や白魔法では治らなかった私の目も、すぐ見えるようになった。

4人のご老人には、感謝しなければ。

「助かった、礼を云おう」

「何の何の!……ところでデリラばぁさんや、この連中は本物の勇者じゃぞ? 浮遊草の靴を分けてやってくれんか」

「 ────しょうがないねぇ、本物はそこの箱に何足も入ってるから、必要な分持ってお行き!」

 デリラ老婆から浮遊草の靴の使用許可は出たが………ルーネスは尻餅をついたまま、青ざめた表情で固まっている。

「ちょ、あんたどうしたの……?!」

 レフィアが心配して、ルーネスの顔色を窺う。


「 ─────ェリア」


「 え? 何……… 」


「 ………! 何でも、ないっての」

 ルーネスは弾かれたように立ち上がり、我々から顔を背ける。


「さっきイングズに庇われて、フラッシュバックしたのかも」

 アルクゥが、近くで私にだけ聴こえるように呟く。


「さあて、戻ろうかの? 若いの、わしらに捕まりなされ。わしらが<テレポ>を使おう!」

 4人の老人達の呼び掛けで、入手した浮遊草の靴と共に我々は下水道を後にする。

────外はもう、日が暮れていた。


ゴールドルの館へは翌日向かう事にし、4人の老人達と別れて我々はアムルの宿屋へ。


………ルーネスは早々に夕食を済ませ、言葉少なに独り部屋へ籠る。


「おかわりもしなかったね、いつもなら何杯もするのに……」

「まぁ、落ち込み過ぎて何も手に付かないよりマシじゃないの?」

「でも、戦闘にも支障出てるみたいだし、このままじゃ──── 」

「ならアルクゥが思いっきりルーネスを励ませばいいじゃない、元々あいつと幼馴染みでしょ?」


「それは、そうだけど……! でもこんな時、どう励ましてあげたらいいか、分からないんだ。もしかしたら、逆効果になるかもしれないし………」

「なら放っときなさいよ。この先もっと足手まといになるようなら、置いてっちゃえばいいのよ」

「れ、レフィア……!? 何でそんなヒドい事云うのさ、君ルーネスが心配じゃないの?」

「 ────心配してない訳ないでしょ、ちょっとイジワル云ってみただけ」

「 ………、イングズは? イングズは、どうしてあげたらいいと思う?」

「 さぁな 」

「あらイングズ、あたしよりイジワルね」

「あいつ次第だからな、全ては」

 答えを出すのも、出さないのも。

「もういいよ、僕は僕で考える!……おやすみっ」

 アルクゥは少し怒った様子で、自分の部屋へ向かう。


「………優しいわね、アルクゥは。あたしとあなたよりずっと一緒に兄弟みたいに過ごしてきたからかしら、ルーネスと」

「どんなに一緒に居ても、判らなくなる時はある。だからアルクゥも今、辛いんだろう」

「ふ~ん……それってサラ姫にも云える事なの?」

「は……? な、何故そうなる」

「だってずいぶん実感籠ったような云い方するから……。まぁいいわ、あいつ自身が辛い気持ちとちゃんと向き合って受け止められるまで付き合うわよ、とことんっ」

「 ………そうか 」

「でもその事でいつまでも悔やんでるようだったら一発……ううん、何発でもガツンとお見舞いしてやろうかしらっ」

「それも、いいかもな」

「それじゃ、あたしもそろそろ休むわね。……おやすみ、イングズ」

「あぁレフィア、……お休み」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 それから少し後、私も自分に宛がわれた部屋へ向かった。

いつもより念入りに武器の手入れをした後────ふと思い立って部屋を出、ルーネスの部屋の前まで行く。

今何をどうしてやれる訳でもないのに、自然と足が向いた。しかし────

暗がりの部屋に本人の姿はなかった。ドアが若干開いたままになっていたので、もしやとは思ったが……トイレか?

いや……、何分か待ってみたが戻って来ないし、そこ自体にもいなかった。ロビーにもいない………

宿屋のカウンターに居る者に声を掛け、銀髪の少年が出て行かなかったかと聴いてみた。

────するとやはり、独り外へ出て行ったのを見たらしい。あいつに限って滅多な事はないとは云えないが………

取り敢えずアルクゥとレフィアには声を掛けず、自分1人で捜しに出てみる。


 肌寒い、月夜の晩だった。何処まで行ったのだろう。まさかこの時間帯に独りで街の外へ出て行くほど無謀な事はしていないと思いたい所だが────

………ん? 何だ、微かに笑い声のような────近所の家から? いや、違う………

聴き覚えのある────それを辿って街の北西側の開けた場所まで来ると、

そこでは月明かりの元、原っぱに胡座をかいていたルーネスを始め、あの4人の老人達が楽し気に談笑していた。

あれ以来、笑顔一つ見せなかったルーネスが………


「うっはっはっは! マジかよそれ……?! ははっ、ひぃ~! 腹いてぇ……!」

 笑っている、馬鹿みたいに。その方がやはり、あいつらしい。

「……おお、何じゃ! お前さんもわしらの冒険譚を聞きに来おったか!」

 4人の老人の1人が、少し距離を置いて居た私に気付いて声を掛けてくる。

「へ……? イングズじゃん! どうしたんだっ?」

 彼らに近寄って行くと、ルーネスは笑顔のまま目をゴシゴシ拭っていた。どうやら、涙が出るほど笑わされていたらしい。


「聞いてくれよイングズ!4じいさんの話、めっちゃ面白いんだぜ!? トンベリってモンスターに夜な夜な包丁で追っかけ回されたり、サボテンダーって奴に針千本喰らって痛い目みたり、モルボルってモンスターからは臭い息吹っ掛けられて、全員カエルになって同時に暗闇、毒、沈黙、混乱、眠り状態になったりしたそうだぜ……!! うははっ、一体どうやって生還したんだっつうの!?」

「そ、そうか。面白い話が聴けて、良かったな……??」

 話の内容に付いてゆけず、私は少々面食らう。


「は~~……何かスッキリしたし、元気出たっ」

 ルーネスはそう云って、すくっと立ち上がる。

その表情は、淡い月明かりの元でも晴れやかに見えた。

「おれ、明日からまたガンバレそうな気がする! いっぱい笑かしてくれてサンキューな、4じいさんっ!
おれ先に宿屋戻るけど、イングズも聞いてったらどうだ、4じいさんの武勇伝!……じゃなっ!」

 ルーネスは、軽い足取りで駆けて行った。


「 ────感謝する、あいつを………ルーネスを元気付けてくれて」

「ハっハっ、わしらは何もしとりゃせんよ」

「何があったかは知らんが……勇者は常に健康でなくてはならん。よく食べよく寝てよく笑う────これを守っていれば、心身共に健康でいられるはずじゃ」

「そして真の勇者には、真の仲間がいるはずじゃ。仲間を想う気持ちが大事なのじゃ。……仲間を大切にするんじゃぞ」

「勿論だ。……が、私には貴殿らのように、仲間を笑顔にする事は難しい」

 気の利いた冗談や愛嬌を振りまくのは、得意ではないのは確かだ。

「何もわしらのようにしようなどと思わんでいい、お前さんはお前さんのやり方で接していけばいいんじゃよ?」

「敢えて厳しく接するのも、またひとつの仲間の在り方じゃろうて」

「飴と鞭も使いようじゃ!」

「男なら、時には拳で語り合うのもいいかもしれんの!」

「フ……、検討してみよう。ありがとう、4じいさん」



 時が違えば、彼らが伝説の4人の勇者だったかもしれないな。




END 
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