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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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昔時の水晶玉


「あああああっ!」

少女の声が響いた。
血が吹き出し、壁に飛び、白い羽が宙を舞う。
緩やかにウェーブした白銀の髪を振り乱し、少女―――――“磨羯宮”シェヴルは前を見据えた。
それと、全く同時に。

音速の剣(シルファリオン)!」
「ぅあっ……!?」

背後から、素早い斬撃。
バサリ、とシェヴルの肘辺りまでの長さの髪を、肩より少し下の長さで斬る。
ふわり、と舞う白銀の髪を視界の隅に入れながら、シェヴルは後ろを向いた。
そこに立つのは、青い髪の剣士。
今の状態―――――つまり、ティア=T=カトレーンという少女がいない状態の妖精の尻尾(フェアリーテイル)で、1番怒らせてはいけない青年だった。

「もう1度聞く。姉さんはどこだ」

溢れそうな怒りを隠そうともせず、青年は呟く。
凛としたテノールに怒気を滲ませ、剣の切っ先を光らせている。
少し長めの前髪から髪と同じ色の瞳が覗いた。

「そして今すぐ姉さんを返せ……返さないのなら、次は髪では済まさんぞ」

青年の名は、クロス=T=カトレーン。
ティアの双子の弟であり、何よりもその事に誇りを持っている―――――姉思い(シスコン)だった。










「ウィンドォォ―――――――ストライクゥゥァァアアッ!」

気合の入った声と共に、疾風の如き弾丸が連続発射される。
連続射撃に向いたリボルバータイプに形状を変えたエウリアレーから、淡い緑の光を帯びた魔法弾が放たれ、敵へと向かう。

飴玉の銃弾(キャンディ・ショット)!」

それに対し、“巨蟹宮”クラッベは左腕に抱えた料理用ボウルの中身をしゃかしゃかと混ぜ、右手に持った泡立て器をピッとスバルに向ける。
鮮やかなピンクの魔法陣が展開し、そこから色とりどりの飴が飛んだ。
ガン!ゴン!と銃弾と飴がぶつかる音が響き、両者共に砕け散る。

「うあー…飴で銃弾が壊れるとかマジかよ」
「アタシの製菓職人(パティシエール)を侮らないでよねっ!そぉーれ!ホイップ・ド・クリーム!」
「おわっ!?」

しゃかしゃかと混ぜ、ピッと泡立て器を向ける。
そこからホイップクリームがぶわっ!と飛び出し、スバルの足元に押し寄せた。
目を見開き、足元にフレイムチャージを放つ。それによってホイップクリームが飛び散り、魔法弾の反動でスバルは宙に飛んだ。
そのまま近くの木の枝を掴み、ぐるんと一回転して手を放し、飛ぶ。

「うわっ!」
「至近距離!かーらーのーっ!サブゼロォォォオオ―――――クラアアアーッシュ!」

単発発射に向いた形状に変えたエウリアレーから絶対零度の冷気が溢れる。
そのまま冷気は球体になり、ピキパキと音を立てて氷と化し、クラッベ目掛けて放たれた。
――――――の、だが。

「させない」
「おぐわっ!」

ぎゅるん、と。
地面から伸びてきた蔦がスバルの右脚を掴み、思いっきり引っ張った。
空中でバランスを崩したスバルの狙いは大きく外れ、クラッベの足元に着弾する。

「んぎゃ!」
「私もいるんだけど…忘れてたとか言わせないよ?」
「悪ィ、マジで忘れてた」
「……」
「どわあああっ!」

蔦が消え、スバルは地面に叩きつけられる。
うねうねと指先から伸ばした蔦を動かす“人馬宮”フレシュは、青い薔薇の花弁で構成された露出度の高い格好をしていた。
スバルの失礼すぎる発言に、フレシュはスバルの足元から巨大なバラを咲かせる。

「痛ぇなオイ……つか、オレ1人相手に女2人ってどうなんだよ?」
「おやおやぁ?オントス・オンとは思えない弱気発言だね~」
「2人相手が無理だって言うなら、1人ずつ相手にしてやってもいいけど」

ケラケラと笑うクラッベと、淡々とした口調のフレシュ。
その言葉に、スバルはひくっと口角を引き攣らせた。
眉がピクッと上がり、はは、と乾いた笑い声が零れる。

「は、はは、はははは……」

からからに乾いた笑い声に、2人は顔を見合わせる。
その様子に気づかず、スバルは嬉しさも楽しさも感じられない笑い声を響かせていく。

「はは……はははははははっ!はーっはっはっはっはっはあっ!」

が、徐々にその笑い声の質が変わる。
随分と楽しそうな、心底楽しそうなモノに。
黒髪まじりの銀髪をかきあげ、天を見上げ、笑い―――――――。

「ったく…妖精戦闘狂(バトルマニア)のスヴァルも、随分下に見られるようになっちまったモンだ。笑うしかねーな、こりゃあ」

くくっ、と笑いを響かせて、何事もなかったかのように立ち上がった。
呆気にとられるクラッベとフレシュに、スバルはニヤリと口角を上げる。

「オレは妖精戦闘狂(バトルマニア)のスヴァル・ベルテインだ!強ぇ奴なら何人だって構わねえ!好戦苦戦大歓迎だ!かかってこいやコノヤロー!」










威力増幅(パワーアップ)――――――金牛宮の拳(タウロスナックル)!」
「おっと」

魔法籠手(ガントレット)威力増幅(パワーアップ)の魔法をかけ拳を振り下ろす焦げ茶色のボブの少女――――“金牛宮”キャトル。
ひらり、と後ろに跳ぶ事でその拳を避け、アランは右手にバチバチと音を立てる紫電を纏う。

「紫電轟雷!」

魔法格闘術を駆使し、アランが地を蹴って飛び出す。
右から、時には下から放たれる拳をキャトルは難なく避けると、小さい声で呟く。

魔法籠手(ガントレット)砲撃形態(キャノンモード)

右手の籠手が、砲撃に変形する。
淡い光が集まっていくのを、アランは視界に捉えた。
電撃を纏った拳を引っ込め、すぐさま回避行動に移る。

「グランバースト!」

が、それより早く、キャトルの砲撃が放たれた。
暴風を圧縮した砲撃は真っ直ぐにアランへと向かう。

「っ暴風螺旋!」

回避じゃ間に合わないと悟ったアランは、表情を歪めた。
両腕を顔の前でクロスさせ、その腕に竜巻のように回転する螺旋状の風を纏い、砲撃に備える。
砲撃は迷う事無くアランに直撃した。

「う、ぐぐぐぐぐ……はああああっ!」

叫び、両腕を振り下ろす。
十字に裂くように暴風の砲撃が大きな音を立てて破壊され、肩で息をする。
桃色の瞳で真っ直ぐにキャトルを睨みつけるアランを見据え、キャトルは息を吐いた。

「戦うのならナツ・ドラグニルのような、肉弾戦を得意とする強者相手が良かったんだがな……こんなガキだとは」
「一応僕は肉弾戦専門なんですけどね…それに僕としても、女性を殴るのは避けたいんですけど」

キャトルの言葉に困ったように笑うアラン。
が、すぐに顔から笑みが消えた。
両拳を構え、呟く。

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の敵なら、女性を殴っても失礼にはなりませんよね?」










ブオン!と空気を裂くような音が聞こえた。
その音が耳に届いた時には次の攻撃が頭上を掠め、そちらに意識を持って行かれていると右下から左からを斬り上げられる。

「口の堅い……姉さんの行方さえ教えてくれれば一撃で済ませるというのに」

呆れたようにクロスは呟き、ふぅ、と息を吐く。
こちらが無傷なのに対し、彼と敵対するシェヴルはボロボロだった。
髪は長さが整わずバラバラだし、ワンピースも髪同様に丈が違う。右脹脛辺りにはバツ印の傷が入り、ブーツはもうブーツと呼べず、そもそも靴としての役割を果たしていなかった。

「貴様…女相手にここまでやるのか」
「敵に男も女もあるまい。それに、俺は姉さん以外の女がどうなろうと興味ない」

睨みつけてくるシェヴルに、クロスは冷ややかに告げた。
勿論仲間であるルーシィ達や同じチームのサルディアとヒルダも大切に想ってはいる。
が、誰よりも大事なのは双子の姉。
姉の為なら何だってする―――――それがクロスだ。

「姉さんはどこだ。とっとと答えろ」
「言う訳が、ないだろう……ティア嬢は私達の狙いだ。あの娘がいなければ、計画は成功どころか始まりもしない」
「そんなの知るか。貴様等の計画なんざどうでもいい」

その手に新たな剣――――――飛燕の剣を別空間から取り出し、構える。
萌黄色に似た色合いの剣身を煌めかせ、スッと瞳から感情が消えた。
それに気付いたシェヴルの手に、水晶玉が現れる。
構わず、クロスは地を蹴った。

「飛燕―――――」

叫ぶと同時に、ゆらりとクロスの姿が揺らいだ。
目の悪い人が眼鏡を外して世界を見るような、そんな感じに。
そこにそれがあるのは解っているのに、それが何なのか、何を示しているのか、誰なのかが曖昧になっている。
揺らぐ姿にシェヴルは少し目を見開いた。

「陽炎剣舞!」

揺らいだ姿から、一撃で五閃。
白く淡い光を帯びた斬撃が、シェヴルを襲う。
――――――が、シェヴルの背後に立つクロスは目を見開いていた。
その頬に、一筋の汗が伝う。

(手応えが……ない!?)

剣が当たってはいる。
が、それは人間にではなく、硬い何か。
先ほどの水晶玉では防げないであろう攻撃。
それが防がれた事に驚きながらもクロスは振り返り―――――気づく。

「氷……!?」

シェヴルは、氷の盾に守られていた。
ヒビの入った氷の盾は音を立てて砕け散る。
その盾を生み出せる魔導士をクロスは知っていたし、その魔法だって何度も見たものだ。

「それは、フルバスターの…貴様、造形魔導士か?」

最強チームの1人、グレイの扱う氷の造形魔法。
それと同じものを扱う魔導士なのかとクロスは問う。
が、シェヴルはそれに対して首を横に振った。
動きに合わせ、所々で長さの違う白銀の髪が揺れる。

「違う。私は“過去を具現化した”。この魔法の使い手はパラゴーネの“三又矛(トライデント)”を防ぐべく、この盾を生み出した」
「何を…言っているんだ?」

“過去を具現化”。
今、聞き間違いでなければ目の前の少女はこう言った。
その意味が解らず、クロスは再び問う。

「私は1年以内の過去を水晶玉に映し、その場に過去を具現化する」

右手に乗る淡い水色の水晶が、キラリと光った。
空色の瞳が、海色の瞳を真っ直ぐに見据える。

「それが私の“昔時魔法”―――――過去を生み出し未来を呼ぶ、時を超え結ぶ魔法」










「はわあ~!」

悲鳴が響いた。
灰色の風がその後ろ姿ギリギリを通過する。
逃げているのは三つ編みの少女―――――“双魚宮”ポワソンだった。

「灰竜の螺旋燼!」
「ひぁっ!?」

そんな彼女と相対するのは灰の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)、ココロ・アーティリア。
両手に螺旋状に回転する灰色の風を纏い、両手を合わせ竜巻のようにして放つ。

「あ、危ないじゃないですかぁっ!怪我したらどうするんですかー!」
「戦ってるんだから怪我するのは当然ですよね!?」

ぷくぅ、と頬を膨らませて怒るポワソンにツッコむココロ。
容姿だけなら同い年に見える2人だが、実際にはポワソンの方が年上である。
はぁ、と溜息をつくと、ココロは大きく頬を膨らませた。

「灰竜の―――――咆哮ッ!」
「うにゃあああっ!」

吹き荒れる灰色の風に悲鳴を上げながらポワソンは咆哮を回避する。
また避けられた、と思いながら、ココロは小さく首を傾げた。

(あれ…?何であの人、何もしてこないんだろ?)









「くっ」

飛び交う鎖を避けつつ、クロスは全てを斬るように薙ぎ払う。
彼は知らないが、これは“極悪なる拘束者(ヴィシャス・バインダー)”ヒジリ・ファルネスが扱う拘束(ボンテージ)だ。

「換装!雷光の剣!轟け!黒き稲妻よ!」

掲げた剣の切っ先に魔法陣が展開し、黒雷が落ちる。
それをパラゴーネの得意とする重力操作で防いだシェヴルは水晶玉を両手で抱えた。

「魔轟爆陣!」
「ああああああっ!」

“氷爆”ザイール・フォルガの必殺技が炸裂する。
まともな防御態勢も取れずに爆発を喰らったクロスは痛みに表情を歪め、地に落ちた。
着地したクロスは大きく息を吐くと、駆け出す。
その両手が光に包まれた。

「換装!双竜の剣(ブルー=クリムソン)!」

右手に炎属性の剣、左手に氷属性の剣を握りしめ、空気を裂くように剣を振る。
右の剣からは炎が噴き出し、左の剣からは冷気が噴き出す。
煙の中から現れたシェヴルを視界に捉えた瞬間、クロスは剣を構えた。

「ハアアアアアッ!」
「ぐぅっ!」

右、左、宙返りしてからの炎と冷気の遠隔攻撃。
シェヴルは表情を歪めると、後方へと跳んだ。
クロスも後方へと跳び、距離を置く。

「チッ…厄介な」
「お喋りしている暇があるのか?」
「っ!」

その呟きに、クロスは唐突に気づく。
シェヴルの水晶玉から、光が零れている。
赤、青、緑――――――その色の数は8。
水晶玉から放たれる魔力に、嫌な予感がした。

(これは…惑星力(プラネタルパワー)か!?)

纏う魔力は、普通とどこか違う魔力。
時々サルディアから魔法学の本を借りて読むクロスが脳内検索してその魔法にヒットするのに、時間はかからなかった。
惑星の力を借りて戦う太古の魔法(エンシェント・スペル)―――――――。

(だとしたら、マズっ……!)

嫌な予感が確信になり、出来る限り距離を取ろうとしたが―――――既に遅かった。
シェヴルの空色の瞳が輝き、水晶玉から零れる光が強くなり、魔力が肌を撫で――――







天体の交響曲(アストロナミカル・シンフォニア)








呟く声が、聞こえた。
視界いっぱいに光が溢れ、目を開けておく事も不可能になる。

「―――――――――!」

声が、爆発音に似た激しい音に掻き消される。
光が治まり、シェヴルが前を見据える。
その目に映るのは――――――床に落ちた、剣。

「クロス殿、敗北……か」

呟く。
そこには、服はボロボロになり全身に傷を負う―――――クロスが、倒れていた。













(ここは……どこだ?)

目を覚ますと、黒が広がった。
痛みに表情を歪めながら身を起こす。
辺りを見回すが、見渡す限りの黒、黒、黒。
黒以外には何もなく、色もなく、広い空間にぽつんとクロスだけがいた。

(俺は…あの女と戦っていたんじゃ……何故、こんな黒い場所に…)

額に手をやる。
立ち上がり、恐る恐る1歩踏み出した。
床が抜ける、とかそんなトラップは無く、問題なく歩ける。

(…何故こんな所に…戻らねば…姉さんを、取り戻さないと……)

フラフラと体を左右に小さく揺らしながら、クロスは額に手を当てたまま1歩1歩進む。
走った訳でもないのに息が乱れ、体中の痛みが徐々に増し、足が重くなる。
見えない何かが体に圧し掛かっているような感覚に襲われながら、それでもクロスは歩みを止めない。
――――――そのつもりだったのに、突如、足が止まる。

(……あ…ダメ、だ…足を、止めたら……)

がく、と膝をつく。
くらり、と体が前に倒れる。
青い目から、ゆっくりと光が消えていく。

(ダメだ…倒れたら、起き上がれなく…なる……姉、さ……)

右手を伸ばす。
でも、そこには何もない。
何かを掴もうとした手が空しく空気を掴み、クロスの体が倒れ――――――






『――――――――――――クロス』






声が、聞こえた。
軽やかで優しいソプラノボイス。
クロスが大好きな人の、柔らかな声。
僅かな期待に顔を上げれば、そこに立つのは自分にそっくりな顔立ち。
自分よりも整った、作られたんじゃないかと思う程の美少女顔。





「―――――――姉さん」





そう呟けば、目の前の少女――――――クロスにとっては大事な姉であるティアは、薄い笑みを湛えこくりと頷く。
それだけで、クロスは安堵し、笑みを取り戻せる。
ふわり、と白く細い手が差し出された。



『大丈夫…クロスなら、きっと。だってアンタは――――――……』



そこから先は、声が無かった。
瞬きをすれば、もうそこにティアの姿はない。
――――――だけど、クロスに力を与えるには十分だった。
姉の無事だけを願い、ずっと自分を責め続けていたクロスには。











「!」

シェヴルは目を見開いた。
小さい声が聞こえた気がして振り返ると、そこには―――――力強く立つ剣士の姿。
ボロボロのバロンコートを纏い、傷だらけの拳を握りしめる青年。

「そうだ…俺は、クロス=T=カトレーン」

確かめるように、呟く。
その右手が光に包まれ、その光は刀を形作る。

「ティア=T=カトレーンの……姉さんの、双子の弟だ…」

右手が、光の刀を握りしめる。
光が強くなり、銀色の刀身が露わになる。
刀身は淡い水色の光を帯び、煌めいた。




「誇り高き姉さんの弟である俺が……こんな所で倒れていられるかあああああッ!」




叫ぶ。
銀色の刀身が輝き、淡い水色の光を纏う。
鋭い切っ先は迷いなくシェヴルに向けられ、柄の部分には群青色のリボンが巻かれていた。

「換装―――――――」

目を閉じ、呼吸を整える。
そして――――――目を開き、叫ぶ。その刀の名を!










「命刀――――――――――月夜見ノ尊(ツクヨミノミコト)!」 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
次回、クロスVSシェヴル決着!
…何か今回で始まる戦いが多かった気がする。
この後はスバル達“外”のメンバー書いて、あと忘れちゃいけないアルカもいるし、ナツもいるし、あとジョーカーの相手をするアイツも……。
ぎゃー!大変すぎるーっ!

感想・批評、お待ちしてます。
ギャグキャラと化しているクロスのかっこいい面を書きたい!と思う。 
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