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ロックマンX~朱の戦士~

作者:setuna
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第三十四話 失意

 
前書き
エックスに助けられたディザイア。
それは彼を追い詰めることに。 

 
ディザイアが目を開けると、そこはハンターベースの医務室の中だった。
カプセルに仰向けになって天井を見上げていた。
自分が何故ここにいるのか、今まで何をしていたのか、はっきり思い出すまでに時間がかかった。
やがて、全ての記憶が甦ってきた。

ゼロ「気がついたか」

ディザイアの意識が回復したことに気づき、ゼロが覗き込んでくる。

ディザイア「私は………一体どうして……?」

ディザイアの問いに、ゼロは答える。

ゼロ「エックスがお前を助けてくれたんだ。本来なら命令無視で見殺しにされてもおかしくないお前をだ」

ディザイア「エックス…隊長が………?」

ディザイアはそのまま黙り込む。それは知りたくない事実だった。
ディザイアは沈痛な表情を浮かべる。
自分が犯した最大の失敗。
そして、今……その失敗を拭おうとしているのが、あの気にくわないエックスである。
それが彼にとっては屈辱だった。

ゼロ「今、エックスが戻ってきた。お前が独断で動いたことで市街地の被害が広がったんだ。いくら身内に甘いあいつでも今度ばかりは処分は逃れられないと思え」

ディザイアが独断で突っ込んだことでエアフォースの流れ弾が市街地に被害を与えたのだ。

ディザイア「…分かって、ます……」

ゼロが医務室から出て行き、そして窓からルインの声が聞こえてきた。

ルイン「エックス!!」

エックス「ルイン?」

窓から様子を伺うとルインがエックスに駆け寄る。

ルイン「大丈夫だった!?フクロウルと戦ったんでしょ?怪我はない?」

エックス「大丈夫だよルイン。ライト博士がくれたアームパーツがあったし、君やソニアを置いて死ねるわけないじゃないか…」

ルイン「エックス…」

ルインがエックスを見る目。
それは自分と同じ目……。
恋をする目……。
誰かを愛する目だった。
自覚はないにしてもルインがエックスを好きだということは分かっていたが、実際にそれを目の当たりにして、もしかしたらエックスではなく自分を選んでくれるかもしれないという淡い期待が崩れていく。

ディザイア「(ルインさん……。あなたはそこまでエックス隊長のことを…。私では、駄目なんですか?)」

目の前にいないルインに、ディザイアは心の中で問い掛ける。
だが、その答えは彼自身分かっていた。
思わず自嘲の笑みを漏らす。
ルインとエックスの絆の強さを痛感した。
2人の間に割って入ることは出来ない。
そう、誰にも出来ないのだ。
ディザイアは近くの端末を使い、空のディスクを差し込んだ。
震える声で言葉を紡ぐ。

ディザイア「エックス隊長、ルイン副隊長…私は命令無視した挙げ句フクロウルに敗北しました。」

今のディザイアにルインに会わす顔がない。
イレギュラーハンターの称号を返上し、ハンターベースから去る。
それが、悲しみ、絶望、失意…。
様々な負の感情に縛り付けられたディザイアに出来る唯一の方法だった。
だが、出ていく前に、エックスとルインに結果を報告しなければ。
自分の胸に溢れている悲しみを無理やり抑え込んで、報告を続ける。

ディザイア「全ては…私の責任です」

淡々と語るディザイアの声は震えていた。





































エックス『レプリフォースは甘くない。お前は確かに強いが、レプリフォースは戦闘のプロだ。直ぐに戻って来るんだ』

ディザイアの脳裏に、かつてエックスが言った言葉が甦る。
あの時、ディザイアはエックスにこう言い返した。

ディザイア『ご忠告、ありがとうございます隊長。ですが、今の私の実力は特A級のそれに比類します。過去の大戦の時のようにあなたに頼るしかなかった時とはもう違います。今は、私でも充分やれるんですよ』

しかし、自分は元イレギュラーハンターの特A級であるスパイダスには手も足も出なかった。





































そしてエアフォースに向かう時も…。

ゼロ『…お前一人で何が出来る。今すぐ戻ってこい』

ディザイア『これはこれはゼロ隊長…私はスパイダスとの戦い以後、更に力をつけました。フクロウルのようにただ後方で指揮するような臆病者には負けませんよ』

あの時、ゼロはディザイアの言葉に怒る素振りも見せず、無言のまま見つめていた。
ゼロは何も分かっていないのだと、当時のディザイアは思った。
だが、分かっていなかったのは自分の方だった。
怒るわけでもなく、あれ以上何も言わずに、冷ややかな目を自分に向けたゼロ。
きっとゼロは、何も知らず血気にはやる自分を見下し哀れんでいたのだろう。
そう思うと、ますます自分が愚かで惨めに思えた。

ルイン『でもディザイア、君だけで挑むなんて無謀だよ』

ディザイア『ふ、副隊長…』

アイリス『そうです!!フクロウル参謀長は知略だけの方ではありません!!兄やジェネラル将軍が一目置くほどの…』

ルインの否定の言葉にアイリスの自身を案じる声に怒りが爆発した。

ディザイア『うるさい!!』

ディザイアがエアフォースに戦いを挑むのもひとえにルインに認めてもらいたい気持ち、そしてエックスへの対抗心から。
自分の想いに気づいてくれないルインに対しての苛立ちが出てしまった。





































ディザイア「ハハ…。私は、駄目な奴です…。前に所属していた部隊では、いつも役立たず扱いされて………」

A級であっても最下位の実力。
例えB級でもエリート部隊に入れたエックスを始めとする、特A級ハンター達とは雲泥の差だった。
だが、第17番精鋭部隊に転属し、ルインと出会い、ここへ来て、今までの惨めな立場から一転して全てが変わった。
しかし、それは自分の独断行動の失敗と共に泡沫と化した。

ディザイア「ここに来て、ようやく第17番精鋭部隊の一個小隊を任せられたのも束の間…全て台無し…です…」

ディザイアは頭を振り、怒りも新たに拳を握った。
しかし、それ以上に怒りを感じるのは、我が身の傲慢さと無力さだった。

ディザイア「それもこれも…私に力がなかったから…」

そう、エックスやゼロのような力があれば…。

ディザイア「力が欲しい…力が欲しいよ…。力を手に入れ…レプリフォースを…イレギュラーを…滅ぼし…今度こそ…英雄になってやるんだーーーーーっっっ!!!!!!」

ディザイアの叫びが医務室に響き渡った。
絶望に囚われ、悲しみにうちひしがれたディザイアが選んだ道。
それは力を手にし、英雄になることであった。

ダブル「先輩」

ディザイア「!?」

ディザイアが扉の方を見遣ると後輩のダブルがいた。

ディザイア「あなたでしたか…丁度よかった。これをエックス隊長かルイン副隊長に渡して下さい。」

ダブル「分かったデシ。先輩、ハンターベースを出ていく前に会わせたい人がいるデシ」

ディザイア「会わせたい…人?」

誰だと思い浮かべるが、もしかしたら自分の同僚達だと思い、最後に会うのも悪くないと考え、頷いた。

ダブル「よかった!!ついて来て下さいデシ!!」

ダブルに手を引っ張られ、苦笑しながら着いていく。
それがディザイア自身を破滅へと誘う最悪の選択だった。


































ディザイアが連れて来られたのはダブルの私室であった。
彼が辺りを見回すが誰もいない。

ディザイア「ダブル、私に会いたい人とは何処に…」

ダブル「近くにいるデシよ?…ね、シグマ様…」

ディザイア「!?」

凄まじい威圧感を感じ、振り向いた先にはかつて最強のイレギュラーハンターだった、史上最悪のイレギュラー・シグマであった。

ディザイア「な、何故お前が此処に…」

ダブル「それは俺が呼んだからさ」

振り向いた時、そこにいるのはディザイアの見知ったダブルの姿ではなかった。

シグマ「驚いたかね?彼は私が造ったレプリロイドだ。液体金属を使用しているために姿形を自在に変えることが出来るのだよ」

ディザイア「ば、馬鹿な…そんな技術が…」

ダブル「まあ、そんなことは今はどうでもいいだろ先輩?あんたには随分と世話になったからなあ。先輩に恩返しさせてくれよ…ルインを手に入れてえんだろ?」

ぴしっと何かが割れるような音が頭の中に響く。
痛みに似た感覚をディザイアは感じた。

ディザイア「副隊長を…?」

シグマ「ディザイア、君はDr.ケインの研究所に入ることが出来る数少ないハンターだ。研究所からルインの…1番最初の大戦時代のデータを入手してもらいたい。」

ディザイア「ふ、副隊長のデータを?」

ルインのデータを何に使うと言うのだ?

シグマ「何、私も彼女にちょっとした興味があるのだよ」

シグマが狙うのはルインの失われた能力のアーマーチェンジシステムのデータ。
それを入手出来れば自分にとって実に有益な物となるだろう。

ダブル「頼むぜ先輩、ルインのデータを手に入れてくれよ。そしてエックスをぶっ殺してルインを手に入れりゃあいい」

ディザイア「…ど、どうやって……?」

相手は英雄エックス。
戦う度に強くなる現在のイレギュラーハンターの最強の一角。
今の自分では、相手の足元にも及ばない存在だ。

シグマ「君にとって悪い話ではないはずだ。ルインのデータさえ入手してくれればエックスやゼロすら凌駕するパワーを与えよう。」

ディザイア「パワーを…?」

シグマ「私達が君に力を貸してやろう。ルインのデータを入手した暁にはエックス以上の戦士となっているはずだ。君はエックス以上の優れた存在になれるのだよ」

ディザイア「私がエックスよりも優れた存在になれる…?」

シグマ「そうだ。全て壊せばいい。エックスを破壊すればルインは君の物となる」

ディザイア「エックスを破壊すればルインさんは…」

シグマ「エックスがいなくなれば、ルインは君を見てくれるだろう。ルインの身も心も君の物になる。」

ディザイア「ルインさんが私の物に…」

ディザイアの胸が高鳴る。
ルインが自分を愛してくれるなら…。
ルインの心をエックスではなく自分の物に出来るなら……。

ディザイア「分かりました。これからケイン博士の研究所に向かい、データを入手してきます。」

シグマ「うむ」

ディザイアは夢遊病者のような足取りで歩いていく。
ディザイアが部屋から出たのを見てダブルは呆れたように自分の主人を見遣る。

ダブル「しかしあんたも随分人がいいな?データ入手の代わりにあんな雑魚を強化するなんてよ。おまけにルインまで」

シグマ「まあ、今の私ではDr.ケインの研究所に入るのは極めて困難だ。使える物は使う。それだけだ。奴にはパワーアップとルインという報酬があるから裏切ることはないだろう」

ダブル「だろうな、あいつはルインに相当惚れ込んでやがるしな。だがよ、エックスとルインは俺の獲物なんだぜ?」

シグマ「エックスは諦めてもらうが、お前はルインの相手をしろ」

ダブル「あ?いいのかよ、あいつの報酬だろ?」

シグマ「構わん。奴など所詮はルインのデータを得るための道具に過ぎん。」

ダブル「了解。奴がデータの入手に成功したら報告するぜ」

シグマ「分かった」

そう言うとシグマは消えた。
ダブルも普段の姿に戻り、部屋を出た。

ダブル「さて…忙しくなりそうだぜ……」

頭を掻きながらエックス達の元に向かうダブル。
ディザイアから渡されたディスクを見つめながら。 
 

 
後書き
ディザイアがシグマ勢に。
シグマがあくどいな 
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