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【短編集】現実だってファンタジー

作者:海戦型
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Mission・In・賽の河原 中編

 
「―――なんだ、こりゃ?」

石積みを崩すための巡回にやってきた鬼は、思わず目の前の光景に目を疑った。

元々この区画―――『”ゐ”の九十九区画』には問題児が多い。元々賽の河原の区画は「ゐ・ろ・は・に・ほ・へ・と」の7つの区分が更に等分され88×7区画で構成されていた。それが大東亜戦争のせいで大量の子供が死んでしまった所為で、賽の河原に大量の魂が流れ込んだ。それをどうにかするために急遽拡張された区画が『89~99区画』に当たる。つまり、99区画には最も現代に近い時代の子供が入るようになっているのだ。

この区画の子供が実に厄介。鬼相手でも怖がらず平気で怒るわ、しょっちゅう反撃がてら妨害や嫌がらせをしてくるわでとにかく今までの子供と違う。こういった変化は現世で日本が西欧文化を取り入れてからも起きていたが、性質の悪さは平成生まれが群を抜いている。

その子供たちが、両手に石を抱えながら関所の前にずらりと並んでいる。
石も積まない。話もしていない。遊んで居る訳でもない。ただただ鬼が通れる道だけ空けて、ただこちらを見ているのだ。

「お、おいガキども・・・何やってる?」

耐えきれずに歩きながらも話しかけるが、無言。怖がらせるはずの自身が余りの気味の悪さに怖がってしまっている。能面のように張り付いた無表情は、この賽の河原で過ごす者たちには余りにも似つかわしくない。そう、こういうのは冥界とか、もっと自己という形状を忘れてしまったような連中がするべき顔だ。

今の鬼は、まるで自分が見回り中に自分の全く知らない場所に来てしまったような気分だった。腹の底に冷たく濁った緊張が渦巻く。子供たちが、自分の通り過ぎたその途端に後ろで何かを始めているような気がする。そればかりが気になった。

―――自分に何かする気なのか?
その得体のしれない状況に、自然と鬼の呼吸が乱れる。未知。不可解。不明。それは、人間ではなく人外の存在が与えるべき感情。それを、自分が既に死んでいるとはいえ人間に味わわされる。それもまた、どうしようもなく気味が悪い。

鬼はまるで文字通り狐につままれた気分になった。河原に化け狐が忍び込んで悪戯をしているんじゃないかとさえ思えた。だが、監視の厳しいここに動物や妖怪が忍び込むような隙はありはしない。人間の魂に「漏れ」は絶対に存在しない。なぜならがそれこそが輪廻転生のシステムだからだ。

そしてそんなシステムの中に一つ、「不振向(ふりむかず)」という理が存在する。

広い広い賽の河原を代わりばんこで巡回し、積石を壊す鬼たち。しかし、もしもその見回りの時間にずれが生じたらどうなるだろう。半刻少しで完成の可能性が生まれる積石を積む子供たちに、その半刻少しの時間を与えてしまうきっかけとなるのだ。そしてそのようなずれは大抵、積石を崩すことに熱中するあまりに巡回中後ろに引き返したり同じ場所に留まった時に起きる。
もしもこのずれを引き起こせば賽の河原の子供たちの中でも積石が上手いものならば石の塔を完成させてしまう。事実、今までに幾度かこの理を破った鬼の所為で大勢の子供が本来の苦行量を終えないままに転生してしまった。中には積むのが下手な子供の代わりに、すでに塔を完成させた子供が石を積み、供養を完遂していないのに積石を完成させた子供までいる。
まぁそれは例外中の例外だが。あれは土台を下手な方の子供が造っていたため、その分の供養を否定できなくなっただけだ。

ともかく、そのようなことが起きるからこ理が存在する。不振向の理によって巡回の時間割は完全に決定されているし、後ろから何をされようが、何が起きようが、振り向いて確かめるのは許されない。破っていいことも何もない。不振向は絶対だ。破れば閻魔大王から直々に処罰が下る。たとえ軽い失態でも、相手が閻魔大王では軽く済まないものだ。

「くわばらくわばら・・・餓鬼どもが何をしてるかは知らないが、こんな気味の悪い日はとっとと仕事終わらせて帰りに一杯ひっかけるに限るぜ」

結局鬼は巡回時間である半刻の間、『”ゐ”の九十九区画』では一切子供を見なかった。背筋にうすら寒いものを感じながら、その鬼は次の区画へと通り過ぎて行った。



―――いいか、時間に余裕は一切ない。

―――通り過ぎ次第、一斉にかかれ。

―――判定は覚えているな?

―――バベル作戦はこれより第2段階へと移る。


―――天に上るぞ?準備はいいな?



 = = =



鬼その2は、区画に入るなり完全に絶句した。遅れて、絞り出すように一言。

「なんだよ、これ・・・」

彼の眼前に広がるのはいつもの賽の河原と決定的に違う。まるで別世界。今まで1000年近くこの河原に勤めてきた中で、ただの一度も見たことのない世界が、そこにはあった。

並ぶ、並ぶ、並ぶ。ずらりずらりと、そこまでもどこまでも。足のやり場に困るほどに大量に設置された―――未完成の積石の大森林。全ての積石は3段目に突入した所で放棄されており、まだ完成には遠いが立派な積石である。

積石規定では、2段までは偶然重なったことになるため3段目からが積石として認定される。つまり3段の積石からは崩さなくてはいけないのだ。ここに広がる積石、その全てを。恐ろしい事に、それを設置したであろう子供たちはずいぶん遠くにいる。が、この周囲に一人もいない訳ではなく、数名はその未完成の積石をさらに量産している。

「な・・・何なんだよこれは!くそっ・・・何て量だ!」

こんな量の積石に加えて更に奥で石を積んでいる子供がいるという事実が、鬼を猛烈に焦らせた。このままでは規定時間である半刻の内に全ての積石を崩しきれない。迷う時間はないと鬼はすぐさま足を踏み出し、石を崩す。

「ウオォォォォォッ!!」

己を奮い立たせるように足を振り回して積石を次々に崩していく鬼。だが、如何せん量が多すぎる。賽の河原を一斉に田植したかのように大量に用意された未完成の積石はその数故に思うように崩せない。かといって、積みかけの石を放置しては後から子供が更に積み上げてしまう可能性がある。

例えばもしここで一つの積石を壊し損ねたままに通り過ぎるとしよう。そうすればこの積石地帯にまだ残っている子供がすぐさま壊し損ねた石のもとへ走り込んでその積石をさらに高く積み上げるだろう。3段からのスタートとなれば、腕のいい子供ならば次の鬼が来るまでに積石を完成させてしまう。そのような小細工で積石完成を見逃したとあっては鬼の立場が無い。

鬼には非常に多岐にわたる分類が存在する。民間伝承にある粗暴な存在、大和朝廷に敗北した土着の神、神話や仏教の分類に当てはまる者から、人より鬼に転じた存在も珍しくはない。この賽の河原含む三途の川の鬼は、そんな鬼の中でも過去に罪を犯し、その償いのために閻魔のもとで徳を積んでいる存在。簡単に言えば、善に属する鬼の中では最下位に位置している。
ここでしっかりと閻魔に与えられた仕事をこなせば、今よりも上の待遇を望めるのだ。閻魔の仕事は不祥事をした際の罰が非常に厳しく、だからこそ鬼は閻魔のもとを去るために労働に励んでいるのだ。

積石は完成したその時点でどんな経緯があったにせよ地蔵菩薩の管轄となる。だが、経緯に不手際があった場合は鬼の責任になってしまう。情状酌量の余地くらいはくれるが、閻魔に罰されることには変わりがないのだ。こんな大規模なくせに小賢しい細工を処理し損ねて叱責を受けるなどあってはならない。鬼は必死の形相で3段の積石を蹴散らし続けた。


その必死さの甲斐もあってか、40分近くをかけて鬼は何とかその大量の積み石を崩し尽くした。普段はある程度のなだらかさを持っている河原の石が、戦場跡のように不規則に崩れてひどく足場が悪い。崩す途中に何人かの子供が後ろへと走って行ったが、不振向の理のせいで何をしているかまでは分からなかった。だが、恐らくこの積石は子供ほぼ総出で組み上げたものだったのだろう。後続の鬼に同じ手が通用するほど数をそろえられるとは思えない。戦略的には、鬼側の勝利だ。

「ぜぇーっ、ぜぇーっ、ざ・・・ざまあみろガキンチョども!」

積み石崩しに多大なる体力を消費してしまったため、肩で息をして膝に手をついている。かなり弱っているように見えるが、鬼は体力と馬鹿力が自慢なので暫く歩けばすぐに立て直せるだろう。そう思っていた鬼の目に―――悪夢が映った。

そこにあるのは―――更なる積石。

しかも、ただの積石とは訳が違う。

「ま、真逆(まさか)、貴様らぁッ!?」
「「「「くっくっくっくっくっ・・・・・・」」」」

その積石は―――「完成された供養の塔に寄り添うような形で積まれている」。

ようこそ(ウィルコメン)!」
「鬼さんこちら♪」
「崩せるのか?崩せねえかもなぁ~!」

にやにやと性悪に口角を吊り上げる子供たちの顔を見て、その憎たらしいしたり顔をその目に映して、鬼は怒りと絶望の入り混じった怨嗟の咆哮を上げた。

「あ、ああっ・・・!あああ・・・ッ!!が、餓鬼共!やりやがって・・・餓鬼共ぉーーーーッ!!」


―――積み上げきった供養の塔は子供も鬼も決して崩してはいけない。もしも崩すとそれを崩した鬼、若しくは子供にその分の祟りが訪れてしまう。祟られると体調が急激に悪化して苦しむことになる。
そして、子供の場合は地蔵に救済されるまで。鬼の場合は、労働時間を担保に解呪の術を使える存在に治療を頼まなければいけなくなる。その労働時間たるや膨大。なんと一度の治療で500年近く無償労働しなければいけなくなる。無論その間の労働は徳には一切含まれず、出世など出来るはずもなし。しかもそれまで積んだ徳は供養の塔を崩した罪ですべて消滅する。この差の川原では最悪に近い仕打ちだった。

その供養の塔。この区画で2か所にしか存在しない完成した積石の一つを絶妙に崩さない形で、石が積まれているのだ。現在進行形で。積石の一部分が供養の塔の一部に隣接していたり圧し掛かっていたり。それでいて積石の形を崩すことなく、そのまま放っておけば完成されるであろう程度にしっかりとした積石だった。

つまり、迂闊に崩せば供養の塔が、自分の積んだ徳と未来の徳もろとも崩れ去る。

かといってこれを放置すれば、塔が完成して自分が責任を取らされ、閻魔の罰を受ける。

見たところ塔の近くに集まっている子供たちは『”ゐ”の九十九区画』きっての腕利きばかりだ。ここで崩さなければ確実に塔を完成させ、楽をして地蔵菩薩に救済されることになるだろう。
いや、あそこにいるメンバーの殆どは、確か既に救済が決定していた筈だ。だからここで完成させようとさせまいとこの小憎たらしい悪ガキどもはここから出ていく。だが全員がではない。何人かはそうではなく、救済の対象には含まれていない。それが実に嫌らしい。しかも子供たちはこちらに近づくと同時に積石の近くで円陣を組んで積石を包囲した。

「かごめがこめ♪」
「かごの中の積石は♪」
「いついつ崩す♪・・・ってな」
「鬼さんこちら!それとも・・・怖くて来れない?うふふっ・・・」
「や・・・止めろ!どけっ!早くどけ餓鬼共!ちくしょう、時間が・・・・・・時間がぁ!!」

傍から見れば、厳つい鬼がかごめかごめをする子供たちを前に必死の形相で喚いているというよくわからない光景にしか見えない。だが、鬼はこの状況が本気でシャレにならない。

子供たちを無視して無理やり石を崩せば当然その手は精細さを欠き、供養の塔が崩れてしまうだろう。そうなれば今までの努力が全て水の泡になり、向こう数百年タダ働きの日々が待っている。
かといってこれを見逃せば上司である閻魔から、死んだ方がマシなほどの罰が下るだろう。罪の重さがどうであろうと、閻魔が下す時点で恐ろしい激痛を伴うことは決定されたようなものだ。一番マシと言われている舌の引き抜きなど、無限にも感じられる激痛を与えるための「工夫」がある拷問なのだから、絶対に受けたくない。どんな工夫かなど、口にも出したくなかった。

そして現在子供たちがとっている円陣。これが本当に拙い。ただ単に円陣を組んで積石をしているだけならば、その隙間に手を突っ込んで石を崩してしまえば事足りる。その隙間を埋める何かがあっても、閻魔の部下として作業効率を上げるために与えられた「法力」を使えば崩すのは容易い。

法力にはいろいろと種類があるが、下級の鬼が使えるのは念力の真似事程度だ。それでも確かに仕事には便利で、書類仕事や子供の浅知恵を崩すには便利なものだ。悪事に使えば頭が割れんばかりの頭痛が走るため悪用できないのだが、決まり事を破らなければ便利な力なのだ。
が、下級の鬼では本当に念力の真似事が精々。精密作業など出来はせず、大雑把な操作しかできないという欠点がある。つまり、いま塔に隣接した積石を法力で崩そうとすれば、塔もろとも崩れ去ってしまうのだ。

(くそっ!くそくそくそくそぉッ!!なんて餓鬼だ!もしもお前らが足を滑らせて積石に当たったら、お前ら散々苦しむことになるんだぞ!?積み上げるのに失敗していれば俺が崩すまでも無く全員責め苦に遭うんだぞ!?最近の餓鬼は正気かよ!?)

怖いもの知らずの捨身の作戦だ。その恐ろしいまでの怖いもの知らずに戦慄を覚えて、鬼は生唾を飲み込んだ。

鬼は実際に塔を崩してしまい苦しんだ子供を見たことがある。体は震えて顔面蒼白、堅い石の床を(ねぐら)に身を横たえ、恐ろしいまでの悪寒と頭痛に苛まれて呻き苦しむ子供。あまりの苦しみに奇声を上げたり、辛さのあまり爪で自分の体を掻き毟ってまでして苦しみを紛らわそうともがいていた。鬼である自分でさえ思わず同情したくなるその苦しみを、この中の全員ではないにしろ目の当たりにしている餓鬼が円陣の中にいる筈である。

つまり、無知ゆえの強気でも無謀でもない。こいつらは決死隊だ。死んだ方がマシなほどの苦しみを味わうリスクがあっても、それを覚悟で乗り越えた存在。あの大量の積石も、態々危険すぎる供養の塔に隣接させて積石を積み上げたのも、その周囲でかごめかごめを歌うのも、すべてそうまでしてでも塔を完成させて救済を受けるため。

(まさか、こんな餓鬼どもがこの賽の河原の決まりを利用したうえでこんな賢しい真似をするとは・・・・・・!!)

今までも、それまでの時代の落とし子とは明らかに違う異質さを見せつけてきた平成の餓鬼共。怠惰と堕落にまみれながらも、自らの意思を通すためには大胆すぎる行為を平気でやってのけ、もはや鬼が(おそれ)の対象であることさえ忘れ去った煩悩の塊どもめ。

こんな餓鬼どものせいで、俺の出世街道は―――

「と言うとでも思ったか、馬鹿め!!」
「「「「何だと!?」」」」

子供たちに動揺が走ったが、その行動は遅きに失した。全く馬鹿なガキどもだ。その程度の対策はとっくの昔に開発されているんだよ。
力の起点は印を結んだ、特にすごいものが潜んでいる訳でもない鬼の右手。ここで働く鬼たちの法力は確かに細かいコントロールを効かせられない。だが―――

「お前ら道を塞ぐ餓鬼を浮かせてしまえばこっちのもんよ!!」

そう、円陣を組む子供たちだけを浮かせるくらいなら訳はないのだ。むしろ繋がっている分浮かせるのは余計に簡単だ。どうだ餓鬼共、今まで必死で考えた浅知恵が簡単に破られた気分は。お前らが鬼の行動を阻害するのなら、怪我をさせないという限定的な条件付きで、こういう手は使えるんだよ。

目を白黒させて空中で慌てながらもがく子供たち。だが自力で空を飛ぶ力も法力を破る力も持っていない彼らは、ただなされるがまま宙に浮くことしか出来ない。勝ち誇った鬼は、精一杯の憎たらしい笑顔を返してやった。

悔しいか、大規模な作戦をあっさりひっくり返されて。
悔しいか、ここまで追い詰めておきながら最後にドジを踏んで。
それがお前らの末路だ。法力は物体を固定させることも出来るから、これを応用すれば中心の塔を崩さずにお前たちの積石だけを崩し去ることが出来るんだ。つまりお前たちの負け―――

「くそ、テメ、汚ぇぞ!素手で勝負しやがれってんだキン○マついてんのかボケナスぅ!!」
「んーこれは困ったな。空中浮遊体験はいいけど体が回ってバランスとれないぜ。姉御、どうす・・・・・・ゑ?」
「いやぁーー!?こっち見ちゃ駄目!ちょっとこの、下ろしなさいよ!降ろしてぇぇーーー!?」
「あ、姉御・・・・・・まさかこの賽の河原に来てからずっとノーパ・・・」
「五月蠅い喋るな口に出すな垂れてる鼻血ひっこめろバカバカバカぁーーー!!」
「あー・・・・・・そうか、日本に限らず昔は女性が下着をつける文化少なかったらしいもんなぁ」
「・・・リーダーのすけべ」
「え、いや、俺はただ事実を・・・」
「・・・すけべ」
「・・・・・・ごめんなさい」
「生まれ変わってアチシをおヨメさんにしてくれたら許す」
「条件厳しくない!?輪廻転生の先に君を発見しなきゃいけなくなったよ!?」
「で、何か用かスケベ鬼?こっちは・・・いいもん見させて貰っ―――」
「死ね!!鬼もろともおっ死んでモヤシにでも転生してしまえ!!豚肉と一緒に炒めて食ってやるこんのエロガキぃぃぃ!!」

「・・・・・・」

悔しくなんかないんだからな。別に想定していたダメージを与えられなかったうえに、女の子の股間を見てしまって言い訳できなくなったせいで悔しくなったわけじゃないからな。

だが、それよりも重要な案件が残っている。法力の力を固定させ、周囲から少しずつ弱めることによって供養の塔以外の石を少しずつ崩していかねばならない。

子供のせいで本当にもう時間的余裕がない鬼は、生唾を飲み込みながらもその集中力を多大に消費する作業へと突入した。


「畜生、手こずらせやがって・・・ま、まずい・・・巡回終了まで体力が保つかぁ・・・?」

その後、残りの十数分で何とか供養の塔を崩さずに石のみを崩しつくすことに成功した鬼は、法力の使い過ぎも相まってよたよたしながら走って次の区画に向かった。今からなら間に合う。ここでダイヤの遅れを起こすと本末転倒だ。

そして走っていた鬼は、ふと「他の子供たちは何をしていたんだろう」と思い至った。鬼はこの区画には何度も来たことがあるが、今日見た子供は今の所全員の半数ほどしか見ていない。それも遠くから鬼の後ろへ走り抜けていった連中も含めてだ。

では、残りの子供は何をやっていたのか―――

「あ―――」

そう考えた鬼の瞳に、絶望が映った。


―――想像以上に時間を稼げたな。

―――地蔵菩薩はまだ来ていないか?

―――ならあとは残りの連中が上に積み上げれば、計画完遂だ。


―――バベルの塔が、天に届く日が来た。
  
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